196. やっと終わります
「今日でやっと終わりね」 望の横でミチルがため息をついた。ミチルが疲れた様子を見せることは珍しい。
「ミチル、僕に付き合ってくれて有難う。2週間も休みがなくて疲れたよね?」世界中を回って、いろいろな人と会ってきた。僕も疲れたけど、常に気を張っていたミチルはもっと疲れているに違いない。
昨夜遅くシドニーからネオ東京に戻って来た。2週間ぶりだ。少し眠っただけで、ブレイブ ニューワールドに向かっている。展示会の最終日だ。
「別に疲れてないわよ。誰かさんと違ってそんな柔にできてないし」いつもの憎まれ口にもどこか元気がない。
「それなら良いけど、今日が終わったら僕はしばらく出かけないからミチルも休んでね」望がそういうとミチルは珍しく何も言わずに頷いた。やっぱり疲れてるようだ。
「望君、待ってたよ。最終日だってことで混雑してるから裏口から入ってくれ」店の前ではギリアンが待っていた。
確かにキラキラした円盤状の建物の入り口に設置されたエレベーターの前には長い列ができていた。ギリアンは列を避けてエレベーターの後ろ側に回った。どうやら従業員用の入り口があるらしい。
「こんなところに階段があったんですね」 派手なエレベーターの後ろに見えないような白いドアがあった。ギリアンがドアを開けると中は狭い階段になっている。どうやら歩いて上がらなくてはならないようだ。結構長い階段を上がるとまた白いドアがあり、それを開けると以前も来たことのあるコントロールルームだった。
「それで、A&Aはどうだった?あの子達の行く先は全部決まったかい?」 ギリアンが訊いた。
「はい。A&Aの都市では無事に各都市5人づつ見つけることが出来ました。もっともパースの5人にはアカが推薦した二人が入っているので、会場で決まったのは三人なんですけど。ここもギリアンとプリンスが入るから会場で探したのは三人でしたし、すぐに見つかりましたね」
「ああ、そうなんだけど、君に言われた通りもう一度実を戻しておいたらあと一人実を落とした子がいてね。つい昨日のことだからまだ連絡してなかったんだが、どうする?」
「えっ、そうなんですか? 他の会場でも実を戻して貰ったんですけど、そういうケースが出なかったので一度決まったらやっぱりもう落ちないのかとウィルソン所長ががっかりしてたのに。教えて上げなくちゃ」
「ウィルソン所長か。あの人ちょっと苦手なんだよな。そんなことより、余った子、どうしたらいいんだ?」
「その子は商品はハワイ島への旅行だと思ってるんですよね?」ギリアンが頷いた。
「じゃあ、他の三人と一緒に来月ハワイ島に来てもらってください。その時に相性の良い方を選びます」
「それがな、困ったことにちょっと若い子なんだ」
「若いって、一人で旅行できないくらい?」
「まあ、そうだな」
「そんな若い子がなんでここに入れたんですか?」 望がちょっと非難するようにギリアンを見た。
「ギリアン、若いって幾つなの?」 ミチルが口をはさんだ。
「3歳だったかな」 困ったようにギリアンが言った。
「そんな目で見るなって。父親と一緒に来たんだ。どうしても触りたい、ってねだられた父親が自分の代わりにと許可を取って娘に触らせた。そしたらな、その子の触った実が3個とも全部落ちた」
「全部?」 望が驚いて目を丸くした。
「でも3歳じゃ木は育てられないわよね」 ミチルが言った。
「それはそうだけど、ギリアン、その子については小さいからって親も一緒に招待してくれる?会ってみたい」
「そうだな。わかった。多分大喜びするよ」




