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192. 養親選び

11月3日正午のワールドニュースです:


 本年度のワールドアート大賞のホログラム部門で大賞を受賞したノゾム アマミヤの個展を全世界20都市で同時に開催すると、主催者のグリーンフューチャー CO.が発表しました。

 アマミヤは連邦のホログラムアート大会では最年少優勝記録を持っており、その記録はいまだ破られておりません。個展では今回の大賞受賞作品«花咲く木»を含む、多くの未発表作品が見られるとのことです。それに加えて、メディアのインタビューには一切応じないアマミヤが各個展会場に現れると非公式に言われています。また、グリーンフューチャーが開発中の新しいマナフルーツの試食会も同時に行うと発表されました… 



 「望、本当にこれで良かったのですか?」 ニュースを消しながらプリンスが気遣うように望を見た。望はあまり目立つことが嫌いだ。それをよく知っているプリンスは望が無理をしているのではないかと心配だった。


 「大丈夫だと、思うよ」 ちょっと自信がなさそうに望が答えた。


 「ドミニクも、オラクルもこの方法が一番確率が高いと言ってたし、いくら()はすぐにだめにならないと言ってもあまり長い時間をかけるわけにもいかないしね」


 「それはそうですが、20都市を15日間で回るというスケジュールも私は反対です。作品の展示と、候補者の自動選抜を行い、最終候補者にのみ会えば済むと思います」 プリンスの言葉に後ろでミチルが頷いている。A&Aを含む20都市にはそれほど治安の良くないところもある。望が自分で出向く必要はないとミチルにも何度も言われた。


 「一緒に行ってもらうミチルには悪いんだけど、できれば自分で、できるだけ多くの人を見たいんだ。勿論僕がどれだけがんばっても可能性のある人の万分の1にも会えないだろうけど」 望は申し訳無さそうにそう言ってから、プリンスをまっすぐに見た。


 「少しでもマザーの希望するような人達にマザーの実を渡してあげたいから」


 あれから、グリーンフューチャーの地下研究所に作られたマザーの木になった実は大きくなり、自然に地面に落ちた。ウィルソン所長の鑑定で、それは生きた実だとわかった。ホログラムに形を与えているだけのリトリートのなかで、どうやって生きた実がなったのかは謎で、ウィルソン所長は歓喜した。実の数はちょうど100個あった。望はマザーから夢を通じてその100個を育てるに相応しい人達に渡すように頼まれた。100個の実は特別に作られた入れ物に入れられて研究所に保管され、候補者が見つかるたびに実を持ってもらって相性を望が判断する、という方法をとっていた。しかし、これまで見つかったのはプリンス、ウィルソン所長、ギリアン、ドミニク、A&Aからアカの推薦でやってきた2名の作業員の計6名だけだった。望はもっと多くの人達に試してもらう必要がある、と感じていたが、その方法がわからなかった。そんな時、ハチとカリがマザーの木をなるべく多くの人間に見せて、その反応から候補者を探せるのではないか、と提案してきた。プリンスがその方法として今年のワールドアート大賞への出品を提案した。入賞できれば宣伝になるから、と出品した作品が大賞に選ばれ、望が驚いているうちに、ドミニクがちょうどいいチャンスだから全世界で個展をやることにしよう、と言ってきた。候補者探しと新しいマナフルーツの宣伝を同時にできると言われて断れなかった。


 「どうしてこんなことになったんだろう、と思わないわけじゃないんだけど、やるからには後悔のないようにがんばりたいんだ」


 「そうですか。わかりました。私もできるだけ協力しますね」 望が心を決めている事がわかったプリンスはそう言って頷いた。


 「それにしても、俺とミチルに相性の良い実がいないというのは、まあ、わかるような気がするんだが、なんで望は育てないんだ?望なら大丈夫だろ?」望に残念ながら相性のいい子がいないと言われて一時落ち込んでいたリーだが、望も一個も育てない、と聞いて驚いている。


 「僕にはカリがいるから…」 望は困ったように言って言葉を濁した。どの実も望にお母さんになって欲しいと言っていた。しかし、マザーからはそれぞれ違う人に育ててもらうように、と頼まれている。望は100個から1個を選ぶことができなかった。それに、カリの気持ちを考慮したのも本当だ。


 「なんだか独占契約しているパートナー(夫婦)みたいなセリフね」 ミチルがちょっと嫌味に言った。ミチルも合う子がいない、と望に言われた時、顔には出さなかったがちょっとがっかりしたので、言い方が皮肉っぽくなるのはしょうがない。


 「変なこと言わないでよ」


 『お母さんにはカリがいるから大丈夫なのに、ミチルはイジワル』


 「望様、カリ様の言葉を伝えますか?」 ハチが妙に気を利かしてカリの言葉を他の仲間に聞かせる事が度々あって、ちょっとまずい結果になったこともあり、望はハチに自分に確認をとってくれるように頼んでいた。


 「いまのは、言わなくていいよ」 望は小声でハチに言った。


 「かしこまりました」 ハチもボリュームを落として答えた。


 「カリが何か言ってるの?」 ミチルは勘が鋭い。


 「なんでも無いよ」 慌てて否定する望を疑わしげにミチルが見ている。


 「それよりミチル、連続優勝おめでとう。新記録だよね?」 話題を変えようとつい先日行われたマーシャルアーツの連邦大会の話を持ち出す。ミチルは中等部からずっと学生部門での優勝を続けており、今年で連続優勝の新記録を打ち立てた。


 「リーも、準優勝、おめでとう」 目立たないが、リーは連続準優勝の記録を持っている。


 「それ、あんまりおめでたくないから言わないで」 リーは苦い顔で呟いた。


 「あら、今年は少し差が縮まったじゃない」 ミチルが慰めるように言ったが、どこかわざとらしい。


 「嫌味か? 嫌味だな。どうせたった1ポイント縮まっただけだよ」りーがぶつぶつ言っているが、おかげでミチルの関心が逸れて、ほっとした。


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