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190.マザーの実

 表向きのオープニングセレモニーが終わった翌日、ひっそりと裏の研究施設のオープニングセレモニーが行われた。参加者はA&Aの科学者と学生の一部、ギリアン、ドミニク、ラキ ウィルソン植物研究所所長、それに望達4人だけだった。


「大変美しい場所ですが、ここで研究しなくてはいけないのですか?」 フューチャープランニングで次元の研究をしていたダン ゴールドマンが辺りを見回しながら呆れたように言った。


「そちらの家の中に研究に必要な物はすべてそろってます」ここを創り上げたギリアンがのどかな風景の中にポツンと見える木の家を指さして言った。辺りは緑の木々と緑の草原、ところどころに花が咲いていてその周りに昆虫や、見たことのないような小動物が見え隠れしている。どうにも最先端の研究をする環境には見えない。


「僕の荒唐無稽に聞こえる話を信じて協力していただき有難うございます。これは僕の記憶にある向こうの世界です。この場所があちらに近く感じるので、どうしてもここにこの景色を再現したかったのです。ギリアン、僕のわがままに付き合ってくれて本当に有難う」 望はそう言いながら曲がりくねった小道を歩き、小高い丘の上に立つ大きな木の下へ皆を導いた。その木にはまだ小さいが実が生り始めていた。実は様々な色で、まるで豪華に飾られたクリスマスツリーのように見えた。

「マザーに実が付き始めているのか...?」 ドミニクが夢見るように言った。


「そうなんです。ここにマザーの姿を設置してからすぐに小さな実が付き始めて、日毎に育っていってます」


「でもこれは、リトリートと同じシステムだろう?誰かがシステムをいじらない限り木の姿は変わらないはずでは?」 ゴールドマンがちらっと疑い深そうにギリアンを見て言った。


「私は何もしてませんよ!望君に言われた通りに設置しただけです」ギリアンの言葉に望が頷いた。


「プログラミングは僕がやりました。僕がプログラムしたのは、マザーに花が咲いて、それが散るまでの姿です。それを今日皆さんに見ていただいてから、いつもの7色の葉をつけた姿にする予定でした。ところが、試運転で一度花が散ったあとすぐに実が付き始めてそれがだんだん大きくなってきたのです。ここは研究所として使いますので24時間稼働し、モニタリングしています。それによりますと毎日わずかずつ育っているそうです。勿論そのようなプログラミングはやっていません」


望の言葉に半信半疑になる者達もいたが、殆どの仲間は未知の出来事に興奮を隠せなかった。


「これ、実が生ったら食べられるのか?」 リーが望に訊いた。


「どうだろう? 何が出来るのか僕にもわからないよ」


「本当の実がなるのか、リトリートのなかで作り出される幻影の実なのか、それがまず問題ですね。一個ぐらいもいでみませんか?」 ウィルソン所長が提案した。


「この木は幻影の木なのですが、実については案外本物ではないか、と僕は思うんです。だから熟するまでは例えひとつでもとりたくないと思っています」望はそう言って残念そうなウィルソン所長の提案を退けた。

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