189.グリーンフューチャー
8月1日正午のワールドニュースです:
本日 ハワイ・アリューシャン標準時の午前10時、ハワイ島において、連邦のグリーンフーズとA&Aのフューチャープランニングが共同で設立したグリーンフューチャーCO.の新社屋、及び研究所のオープニングセレモニーが行われました。新設された植物研究所は地上だけでなく、地下にも広大な施設を持っており、隣にあるマグマ誘導研究所と共同で地下でマナフルーツを育てる研究を行う予定であり、これが成功すれば地下に住む200億の人達にもマナフルーツが行き渡るだろう、とグリーンフューチャー代表のドミニク バーンスタイン氏が発表して招待客から盛大な拍手を受けていました。
本日のセレモニーにはキング大統領も参加しており、新会社への祝いと、期待の言葉を述べました。 A&Aからは議長代理のリンダ ウィリアムズ氏が出席し、連邦と共同研究することによって南極エレバス山でのマグマ誘導が進むことを期待すると述べました。
「グリーンフューチャーなんてそのままの名前じゃないの。もう少しなんとかならなかったの?」ニュースを見ながらミチルがブツブツ言っている。
「文句を言うならミチルが考えれば良かったじゃないか」プリンスに言われて渋々名前をつけた望はそう言い返してから、疲れたようにソファーに座っているドミニクに歩み寄った。
「お疲れ様でした、ドミニク。とってもいい挨拶で皆感動してましたね」
「全く、他人事だと思って…」 望の褒め言葉に、思い切り顔をしかめられた。
望達は新しく建設された植物研究所の下にある居住区の中にいた。地下の果樹園と、マグマ誘導の研究所は地中の深いところにあるのだが、山の中腹部分に従業員のための居住部分を設けてある。望達とドミニクもそこに部屋を持っていたが、今は大きなホロスクリーンのある共有のホールにいた。ホールの外のテラスからは青い海が見えた。
「そう言わずに、これ食べてみて。プリンスもやはりドミニクに代表になって貰って良かったって言ってたよ」 望はそう言いながら薄い紫色の果物を手渡した。疲れた様子のドミニクがその果物に手を伸ばした。
「おっ、これはなんだい?これまで食べたことがない味だな。わしは甘いのは苦手だが、これは美味い。ミントに似てるが…もっと美味いし、疲れが消えていくようだ」
「そうでしょう? 疲労回復効果を入れてみたんです」 嬉しそうに言う望に、そんなこともできるのか、とドミニクが感心している。 ミチルが普通はそんなことできるわけないじゃない、と呟いている。
「それ、俺にもくれ」 部屋に入って来たリーが望の言葉を聞いて手を出している。
「リー、施設の案内は終わったの?」 リーに果物を手渡しながら望が訊いた。
「ああ、やっと終わった」 リーはソファーに体を投げ出すように座ってから果物に齧りついた。
「プリンスは?」
「大統領を見送ってるよ」
「僕は見送らなくても良かったかな?」
「大丈夫だろ。下手に望が出て行くとどうなるかわからないから、出てこないように言ってくれとさ」
「それは…どういう意味だろ?」
「これ本当に疲れがとれるな。よし、次は腹に溜まるやつをくれ」 少し元気を回復したらしいリーが手を出したので、テーブルに積んであるマナフルーツからこげ茶色の果実を選んで渡した。
「俺の好きな奴、チョコパン」リーが嬉しそうに食べ始めた。そこへプリンスが入って来た。どうやら無事大統領の見送りが済んだらしい。
「プリンスもお疲れ様。これをどうぞ」 望はそう言って薄紫の果物を差し出した。
「これは…疲れが取れていくのがはっきりわかりますね。しかも美味しい」 感心したようにプリンスが言った。
「良かった。今度この木を地下に植えてみるつもりなんだ。地下でも大丈夫って言ってるから」
望は地下の果樹園に植える木を選ぶ役目を買って出た。地下に行ってもいいかちゃんと木に聞いてから決めているのでなかなか数が集まらない。それでもドミニクに手伝って貰って少しづつ増えていた。夏休み中には果樹園を一杯にしたいと頑張っている。




