186. マグマ誘導研究所
2週間後、プリンスの家には世界中から多くの人達が集まっていた。プリンスが新しい共同研究所の発表をすると言って関係者を集めたのだ。100名近くいる。
「2週間でこんなに集めるなんて、流石プリンスだね」 望が感心している。
「何を言っているの。半分以上は望が集めた人達でしょ」ミチルに言われたが、望には心当たりがない。
「僕が?」
「望様のご指示で私が手配致しました」執事姿で給仕ロボットを指示していたハチが望の横に現れて答えた。
「僕が頼んだのは多次元研究をしている科学者だけだったような気がするんだけど」
「はい。フューチャープラニングの次元研究部門の研究員のうち適任と思われるもの5名、そのアシスタントとして特に優秀と思われる学生を15名、合計20名を勧誘致しました」
「学生を15名?そんなに学生ばかり雇ってどうするの?」
「この研究所の目的を考えますと優秀なだけでなく柔軟な頭脳が必要です。その基準を満たすものを探しました」
「それでも20人だから、半数って事はないよね?」望はハチと言い合う事を諦めてミチルに言い返す事にした。
「ハチ、全部で何人呼んできたの?」ミチルが望を鼻で笑ってからハチに質問した。全く100年の恋も冷めるとはこんな顔だな、望はこっそり思った。恋などしてないが。
「望様の関係者として総数72名ご招待致しました」
「72人?」それじゃあ確かに半数以上だ。
「なんでそんなに沢山?20人はわかったけどあとの52人は誰?」望がハチを見て問い詰めるように訊いた。
「今回の研究の趣旨を鑑みてカリ様のご意見を伺いました。そのお勧めに従い他の人選を行いました。いずれもこれから行う研究に役に立つ方達と考えます」
「カリの意見?」それって大丈夫なのだろうか。
「やあ、望くん面白い事を始めたね」 もう少し詳しく説明して貰おうとハチを見た望にドミニクが話かけた。
「誘ってくれて有難う。この歳になって新しい事に関われると思うと興奮するね」 どうやらハチがドミニクを招いたらしい。チラッとハチを見ると得意そうに頷いている。
「えっと、よろしくお願いします」しょうがないので曖昧に返事を返すと、更に数人が望に挨拶にやって来た。どうやらA&Aから招かれた(望が招いたらしい)人達だった。
望が戸惑っているうちにプリンスが挨拶を始めた。簡単な紹介に続いて研究所開設の目的を説明する。
「今回の噴火はマグマ誘導の失敗ではなかったとはいうものの、今回のような思いがけない事態にも対応できるようにより研究を重ねていかなくてはならないと痛感致しました。どのようにして研究を進めていけばよいかと悩んでおりましたところ、友人の天宮君の提案で南極でマグマ誘導の研究をしていらっしゃるフューチャープランニングの方々との共同研究が実現することになりました。これによって連邦、A&Aという枠に囚われることなく、飛躍的に研究が進む事を願っております。更に、再建予定のグリーンフーズ植物研究所の方も、フューチャープランニングの植物研究所との共同研究をすることになりました。こちらも協力することによって、マナフルーツを中心にこれまで以上の結果を出せたらと思います。今回の悲劇を乗り越えて更なる発展のきっかけとなるようにご協力をお願いいたします」
「マグマ誘導の共同研究?」 異次元の研究のはずがいつの間にマグマ誘導の研究になったんだろう?
「望、先週の作戦会議を聞いてなかったわね?」 望のキョトンとした顔を見たミチルが小声で呆れたように言った。
「そんなことないよ。でも、どの会議?」 プリンスはホントに作戦会議が好きなんだから、全部は覚えてられないよ、と呟く望にミチルの蹴りが入った。
「異次元研究はキワモノ扱いされるから、表向きの目的としてマグマ誘導の研究ということにしようって決まったでしょ!」 辺りを気にしながらミチルが望を睨みつけて小声で言った。
そう言えばそんな話を聞いたような気もする。
「わかってるよ。ちょっと忘れてただけだよ。植物研究所でマナフルーツの共同研究というのはちゃんと覚えてたし」 慌てて言い訳するがミチルからは全く信じていない様子で冷たく見返された。
プリンスの挨拶のあと、ハチから参加者の詳細を聞いた。次元研究所の20人に加えて、南極のエレバス山でマグマ誘導の研究をしている科学者を25人、ドミニクと彼の助手として5人、後は何故かギリアンと彼の会社の技術者を合わせて10人、残りはフューチャープランニングの植物研究所から10人と、砂漠開発部門から2人だそうである。
「砂漠開発部門からも?」
「はい。カリ様によりますと、あちらのアカ様から是非参加させるようにと推薦があったそうです」
「アカが?」 一体カリはアカになんて説明したのだろうか。望の知らないうちにいろいろと計画が進んでいるような気がする。




