184.ミステリースポット?
ハチが発電所のシステムを修理している間、望は目を閉じてあの時感じたマザーの存在を思い出していた。ここに来るとやはりマザーを近く感じる。それでハチにもあの時のシグナルがないか調べるように頼んでいた。しかし、ハチをもってしてもどこかに繋がっているようだとしかわからない。となれば例え大掛かりに調べることが可能でも、解明は難しいだろうな、と望は思った。
『マザー』 そっと呼び掛けてみた望の声に応えはなかった。思わず止めていた息を吐いて目を開けた時、かすかに声が聞こえた。
『望君、なのか?』 マザーの声ではない。知っている声だったが、ここで聞こえるはずもない声だった。
「ドミニク?」 望は思わず声に出して答えてから、周囲を見回した。プリンスとミチルがこちらを見ているが、ドミニクの姿は勿論どこにもない。プリンスの何か聞きたそうな顔に後で、と合図して目を瞑った。
『やっぱり君か。どうしたんだいこれは?』
『僕にもよくわからないんですが、ドミニクは今どこですか?』別にドミニクを呼ぶつもりはなかったのに、というのは何だか間違って通信をかけたみたいで言いにくい。
『わしはまだアフリカだ。来週にはネオ東京に行こうと思っておるが。これではもう少し早く行った方が良いかもしれんな』
『そうですか。ではネオ東京に着かれたら会いましょう。その時にでも詳しく話しますね』望はそう言って、頭の中で通信を切るイメージをしてみた。ドミニクの存在がなくなったのでどうやらうまくいったようだ。ほっとして目を開けると、プリンスとミチルが物凄く驚いたような顔をして望を見ていた。
「マザーの声が聞こえないかな、と思ってたらどういうわけかドミニクに繋がっちゃって。驚かした?」 そう言って2人を見ると揃って首を振られた。
「そんなことでは驚かないわよ、望のやることだし」 ミチルはそう言ったが、まだ動揺しているようだ。
「アフリカにいるドミニクと繋がったと言うのは確かに驚きますが、問題はそこではありません」 プリンスがそう言って、一旦言葉を切った。
「今の会話が、私にも、いえどうやらミチルにも聞こえたということです」プリンスはちらっとリーを見た。リーが首を振っている。どうやらリーには何も聞こえなかったらしい。
「そうなの?」 頭の中での会話だったため周囲には聞こえていないと思っていた望はびっくりした。もしかしたらこれからはカリと話すときに気をつけなくてはいけないかもしれない。そんなことを考えていると急に多くの声が聞こえて来た。
『お母さん』『お母さん』『お母さん』…今度はどうやら自分の木達のようだ。どうやらみんな望に呼ばれたと思ったらしい。望はいつもは意識の片隅でぼんやり感じている多くの木の存在がはっきりしているのを感じた。みんなに優しいエネルギーを送るようにしたあと、そっとドアを閉めるようにした。
「どうしました?」 話している最中に目を瞑った望を気遣うようにプリンスが訊いた。
「今のは聞こえた?」 二人に訊くと怪訝な顔をされた。どうやら聞こえなかったらしい。
「僕の木達が話しかけて来たんだ。ドミニクの声が聞こえたのなら、と思ったんだけど」
「そういえば少し何かざわつくような感じはしましたが、声は聞こえませんでした」 プリンスはちょっとがっかりしたようだ。
「そう言われれば、私もすこし雑音が聞こえたような気がしたわね」
「私には聞こえました。3491本の木からのシグナルでした」 青い技術者のユニフォームを着たままのハチがどこか得意そうに告げた。
「3491本?そんなにいたんだ」 あれ、カリはいなかったよね?
「カリからは何も言ってこなかったね?」 呼びかけるとすぐに答えるカリがどうしたのだろう。
「カリ様は私から望様の活動を把握しておられます。望様は今忙しいから待っているとの事です」
ハチの答えに望は唖然とした。どうもこの頃ハチが以前と違ってむやみに話しかけてこないし、ものわかりが良いと思ったらそんなことをしていたなんて。やっぱりこの二人は怖い。
「多分、木の声が聞こえたとしても私達では理解できないのでしょうね」 少し考えてからプリンスがそう言った。
「それにしてもこの場所は特別のようですね」
「ミステリースポットというやつだな。俺には効かないようだが」 リーが面白そうに言った。
「これがミステリースポットかどうかは疑問ですが、どうせ研究所を再建するならこの辺りにしてみても面白いかもしれませんね」




