183.異次元との繋がり?
「大丈夫?」 小さな木の枝に手を触れて訊いた。何度か呼びかけてみたが、返事は感じられなかった。しかし木は生きているようだった。
「生き残った木があったのですね」 プリンスが望のそばに来て感心したように言った。
「木は強いから」 望はそう言って小さな枝に思い切りエネルギーを流し込んだ。
『? 誰?』 かすかな声がした。
「気がついた?」
『おかあさん…』 望の頭の中にぐちゃぐちゃになった記憶が入ってきた。
「望、どうしたの?」 ミチルが望の肩に手をかけて軽く揺すった。どうやら少しふらついたらしい。
「僕の木だ…でも少し記憶が乱れているみたいで」 生きていたんだ。
「それは無理もないでしょうね。あの噴火を生き延びただけでも奇跡的です」 プリンスの言葉に望は頷いた。
「望、こんなところじゃ大変だろ?掘り出してどこかへ移したほうが良くないか?」 リーの質問に望が首を傾げた。植物は大抵の場合根を張ったら動きたがらない。
「どこか別の場所に植え替えてあげたほうが良い?」そっと訊いてみる。
『…ここにいる』 再び言葉にならないようなぼんやりした思考が感じられた。
「この辺りにはまだ仲間がいるんだって。だからここにいたいみたい」
「仲間?この溶岩の下で生きているのか?」 リーが驚いたように言った。
「そうみたい。多分根が無事な木は結構あるんだと思う」 望はそう言って、プリンスを見た。
プリンスは、自分が植えた木も生き残っているかもしれない、と思った。噴火は短い間だったから流れ出た溶岩の量は多くない。地面の下の根が生きていればそのうちまた芽を出してくるに違いない。そう思うと少し心が軽くなった。
今の場所でがんばるという木と別れて、エネルギー研究所のあった場所から、発電所へ向かった。 発電所は地下で、噴火の被害は殆どなかったが、マグマ誘導システム以外は休止していた。
「じゃあ、ハチ、お願いします」 プリンスの言葉にハチがシステムのチェックを始めた。
「点検終わりました。補修必要箇所は28箇所です。補修しますか?」 数分後ハチが訊いた。
「お願いします」プリンスの返事にハチがAIとロボットに指示を出し始めた。
「終了しました。運転開始しますか?」 1時間程経って、今度はハチが姿を見せた。何故か発電所の技術者のような青いユニフォーム姿だ。呆れている望に一礼して、プリンスに訊いた。
「そうですね。安全に問題がないなら、お願いします」 プリンスが頷くと、静かだった発電所から低い音が聞こえ始めた。
「ハチ、有難うございます。ハチのお陰で予定より早く再開できました」 プリンスはハチにお礼を言ってから望を見た。
「望、ハチを貸してくれて有難う。ここの発電所が休止しているとかなりの人が困るので本当に助かりました」
「少しでも役に立てたら良かったよ。僕のほうがここに来たい理由があったんだし。ハチ、どう?」
「はい、ここのシステムを通じて別の場所との繋がりを感知しました」
「そうだね。僕も感じる。ハチにはどこと繋がっているかわかる?」
「特定できません。マザーと呼ぶ存在と繋がった時と同様の場所かと推定致しました」
「やっぱりそうか」
「マザーのいる場所と繋がっている?それって異次元じゃないのか?」 リーが声を上げた。
「多分。あの時、マザーの存在を確かに感じたんだ。ここに来て更に強く感じる」
そう。マザーが望に呼びかけた時、これまでにない程マザーを近くに感じたのだ。まるですぐ隣にいるように。
「この辺りに異次元に繋がる何かがある、ということでしょうか」 プリンスが辺りを見回しながら考え込むように言った。
「異次元に繋がっている…のかな?」




