182. ハワイ島にて
「プリンス、どうしたの?」 立ち尽くしているプリンスに気がついて尋ねると、プリンスは夢から覚めたような顔をした。
「望、これは……」 部屋の中央に立っている見たこともない程美しい木を指して、それから望を見た。
「うん、夢でマザーが花をつけるところを見たんだ。忘れないうちにと思って」なんだか恥ずかしそうに言う望。
「マザーの花?」 プリンスは七色の葉をつける美しい木を思い出した。あの木が花をつけたのならこの想像を絶する美も納得できる。
「花は7色より色が多いのですね」何色あるのかもわからない。すべての色とその濃淡色で一つとして同じ色の花が無いようにさえ見える。
「夢の中ではすぐに散ってしまったから、忘れたらもう見られないんで慌てたんだ」
「望のお陰で私達もこの美しさを見る事ができて、本当に幸運ですね」 うっとりとした息をつきながらプリンスが望に感謝した。
「僕も皆と一緒に見たいと思ったんだ」 照れたように言ってから、望は首を傾げて訊いた。
「プリンス、何か用事があったんじゃないの?」
「そうでした。ビルからの連絡でハワイ島への上陸許可が取れたからいつ来るかと言う事です」
「もう? じゃあ今日でもいいかな?」
「今日は日曜日ですからね。私は大丈夫ですよ」
ミチルとリーも行くというのでいつもの4人でハワイ島に行くことになった。プリンスの提案で、花をつけたマザーの姿はリトリートに設置して、ミチルとリーを驚かすことにした。
「溶岩はかなり冷えてほとんどの部分で歩くことができますが、まだ一部熱いところもあるから、気を付けてください」 警備に当たっている連邦軍の兵士が注意した。
「わかりました。有難うございます。気を付けますわ」 そう言って微笑んだミチルに若い兵士がちょっとぼおっとしたようだ。ミチルの猫かぶりの被害者だ、とリーと顔を見合わせていたら、周りから見えない角度で素早くミチルに蹴られた。
「宜しければご案内しましょうか?」 もう一人の兵士がミチルに申し出た。
「有難うございます。でも、お仕事の邪魔をしても悪いですから大丈夫ですわ」猫をかぶったままでミチルが案内を断り、ミチルを先頭に4人はグリーンフーズの研究所があった辺りに向かって歩き始めた。
辺りの景色がすっかり変わっていたが、ハチの指示で進んだので、すぐに植物研究所の跡地に着いた。この辺りの溶岩はもともと少なかったらしくもう熱くはなかったが、建物はすべて溶岩に溶けて流され、何も残っていなかった。ハチが言わなければとてもここにあの研究所があったとは思えなかっただろう。研究所に溢れていた木々の事を思い出して望の心は沈んだ。
「プリンス、またここに研究所を建てるのか?」 リーが辺りを見渡しながら訊いた。
「それは検討中です。植物研究所の再建は間違いないのですが、場所についてはまだ決まっていません」
「ここには何も残っていないね」 望はそう言ってハチに、エネルギー研究所の辺りに案内してくれるよう頼んだ。エネルギー研究所とマグマ発電所は山の中腹にあるので、登っていく溶岩はまだ熱い場所もあった。望達はA&Aの家の研究室で作って貰った特別仕様の靴と服を装備しているので多少の熱は大丈夫だが、万が一まだ固まっていない場所があるといけないので、ゆっくりと進んだ。
「あっ」 望が小さく叫んでミチルの前に出るとまだ熱い溶岩の上に膝をついた。
「どうしたの?」 ミチルは望の跪いた辺りを眺めたが、黒くなった溶岩以外何も見えなかった。
「これを見て」 望はそっと何かに触れている。 よく見ると小さな木の枝が固まった溶岩の合間からのぞいていた。




