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178. お爺さんとお話 2

『?』 老木は大統領が謝っているのはわかったらしいが、何を謝っているのかは理解できなかったらしいので、説明してあげた。


『ふん、別に爺さんと呼んでも構わんよ。そこの幼子や、人間から見たら私の方がずっと長くここにいるからね』

 老木の思考はカリに慣れている望には少しわかりにくかった。望は、木々の思考を無意識下で受け取って、人間の言葉として自分の意識に伝わってくる、と理解していた。それが、少しわかりにくい言葉として意識に伝わる、ということはこの木の思考がカリとは少し違うからだろうな、と思った。それが木の種類によるものなのか、樹齢によるものなのかはわからないが。


『有難うございます。このあたりで一番長く生きているのは貴方ですか?』


『そうだな。 少し前まで私より長く生きていた木がその先にいたが、強い風で倒れた。人間が来て倒れたところを切ってくれたが、もう弱っとったから、生き返らなんだ』 寂しそうに聞こえたので、望は尋ねたのを申し訳なく思った。


『もし良かったら、少し僕たちとお話してくれますか?この人はキング大統領です。大統領っていうのは、人間の中でのリーダーですが、貴方とお話したいと言ってます』 望は果たしてこの木に大統領という観念がわかるのか、と思った。カリにその辺の理解ができるのは望といろいろな話をしているせいだと思う。最近ではハチと話しているらしく、時々驚くような事を言う。


『そうか。私と同じだね。それで、どんな話をしたいのかな?』 老木はあっさりと言った。本当にわかったのかな?


「大統領、どんな話をしたいのかと訊いています」 望は大統領に訊いた。


「ああ、幾つかあるんだが。まず、5000年前からの環境の変化を感じているか?」 大統領はLCのディスプレイを見ながら訊いた。何やら質問のリストがあるらしい。


『カリ、カリが大統領の質問を伝えてあげて』 老木には人間の言葉を直接理解することは難しいと感じた望はカリに頼んだ。


『わかったの』 カリが大統領の言葉を老木に伝えた。


『私が生まれてからはいろいろな事があった。仲間が死に絶えたこともある。人間が沢山来るようになってからは雷ではなくて人間のせいで山が燃えたこともある。しかし、この頃はそんなことはなくなった。ここに住んでいた他の動物は、ほとんどいなくなったが、その分人間が増えた』 カリの質問への返答を大統領に伝えた。


「人間が増えたことについてはどう思うかね?」


『変な事を訊くね。いろいろな動物が増えては、いなくなった。迷惑をかける動物もいたし、仲良く暮らせる動物もいた。人間も同じだ。迷惑をかけられたこともあるが、助けてもらったこともある』 どうしてそんな事を訊くのか良くわからない、という感じだ。


「それじゃあ、木が他の木とコミュニケーションをとるには、匂いや、電気信号のようなものを使うというのは本当かね?根を触れ合って通信することは?」


『本当だ。根を触らなくとも大丈夫だ。間に生き物がいれば大体話せる』生き物というのは微生物だろうか?


 大統領は用意してきた質問を順に尋ねていった。学者から渡された質問リストも多いようで、どうにも老木には理解できないらしい質問も多かったが、大統領は満足そうだった。


「本当にためになったよ。有難う。最後に、なにか私達に希望することはあるかね?」


『人間に希望すること? 私達はただここにいるだけだ。できればこのままここにいたい』


 望が伝えると、大統領は頷いて、出来るだけ努力する、と言って、大統領と老木の会談は終わった。

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