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175.木の考える事

「それじゃあ、本題に入ろうか」 コーヒーを飲みながら大統領が言った。


「本題?」 ハチの事が本題じゃなかったのか、と驚く望に向かって大統領がにっこり笑った。


「コージから聞いたんだけど、天宮君は木と話せるとか。コージの言うことじゃなかったらとても信じられなかったんだが、ハワイ島の一件で私も信じることができた。君はどんな木とでも話すことができるのかい?」 大統領の単刀直入な質問に望が答えに困って周囲を見渡した。プリンスがどこか諦めたような表情で望と大統領を見ている。


「いいえ、主に自分が育てた木の感情がわかるような気がするというか」 嘘をつくのが苦手な望はなるべく曖昧な言い方をしようとためらいがちに答えた。


「主に、ってことは他の木とも話せるんだね?確かハワイ島の時は木に地面が震えてると言われたんじゃなかったかい?」


「ハワイ島には僕の育てた子がいたんです。どんな木とでも話せるわけではありません。一部の木だけです」大統領に詰められて、渋々返事をすると、それを聞いた大統領は嬉しそうに笑った。


「やはり話ができるんだね。コージとも話したんだが、我々人間は植物に知性があることは理解していても、全く意思の疎通ができないせいで、その知性がどのようなものかわからない。君のように木の言葉を理解できる人間が生まれて、人間と植物が理解しあえるようになるなら、人間は、いや地球は大きく変わっていくはずだ」 頭上の七色の葉を見上げながらどこか夢見るように大統領は言った。それから大きくため息をついて続けた。


「勿論、簡単なことだとは思わない。私の立場で公に君が木と話せる、などと認めることも今はまだできない」 その言葉に当たり前だ、とちょっとほっとしながら望は頷いた。


「しかし、君を通じて同じ地球に住まう種族としての木々の意見を聞いて、それを参考にすることができたなら、と思うんだ」 そう言うと、驚いている望の肩に手を置いた。


「人間は他の動物とも、ましてや植物とは全く話せない。私達人間は同じ惑星に住み、私達の命綱である植物を理解していない。その深い溝を少しでも埋めるために力を貸してくれないか?」


大統領の言葉と真剣な目に思わず頷きそうになった望の腕を、プリンスが優しく引いた。


「大変素晴らしいお考えだと思います。力を貸す、というのは具体的にどのようなことを天宮君に期待されていらっしゃるのでしょうか?」 プリンスが望を大統領の手からはずして、訊いた。


「そうだね。まず彼らが人間をどう思っているか知りたい。できれば各地域の開発計画についてもその地域に根付いている彼らの意見を取り入れたい」


大統領の期待に満ちた言葉に、ちょっと考えてから望は残念そうに首を振った。


「申し訳ありませんが、多分お役に立てないと思います。僕の育てた木々は、まだ若くて、そのような質問に答えることができそうもありません。もっと古い木なら、或いは可能かもしれませんが...」マザーのような木がその辺にゴロゴロしているわけではないはずだ。


「古い木か? 確かカリフォルニア辺りには随分古い木があったはずだ。パインツリーだったと思うが5000年以上は生きている。もしその木と話せたらどうだ?」 


「5000年以上ですか!」 そんな木は今の地球をみて何を思っているだろうか?望は思わず興味を惹かれてしまった。大統領はそんな望を見てにんまりと笑った。


「話してみたいだろう?私もだ。一緒に行ってみないか?」 



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