172. 招かれざる客
ブレイブ ニューワールドのコンサートから帰った望は、どこか張りつめていた気持ちが少し楽になったようで、その夜は久しぶりによく眠れた。
翌日の土曜日、望はのんびりカリと一緒にいろんな木との噂話を楽しんでいた。オーストラリアの(元)砂漠にいるアカの話は面白い。アカの木の上に住み着いた凶暴な鳥‐どうやらイヌワシらしい‐のせいでそれまで住んでいた綺麗な鳥達がいなくなったというのでアカがその大きい鳥を追い出そうといろいろと画策した話は特に面白かった。笑っているとハチが現れた。
「望様、ウィリアム キャンベル様から通信が入っております」ハチにそう言われて、望は戸惑った。どこかで聞いたことのある名前だが、すぐ出てこない。
「ウィリアム キャンベル様はキング大統領のアシスタントです」 望の戸惑いを察したらしいハチが付け加えた。
「ビルのことか! ハチ、繋いで」 すぐにニコニコとしたビルが現れた。
「やあ、久しぶり。元気かい?大統領が漸く少し時間ができたんで、君達にお礼をしたいというんだよ。急で悪いけど、今から良いかい?」
「ビル、お礼なんて必要ないと大統領にお伝えしてくれませんか?」望が本心からそう言うと、ビルが困ったように望を見た。
「お礼は勿論本気だけど、それ以外にも用事があるって言ってたから、そう言わずに時間を作ってくれないかな?もうそちらに向かってるからあと30分程で着くので、よろしくね」 ビルは望の返事を聞かずに通信を切った。望は諦めてプリンスに知らせようと立ち上がったが、そこへプリンスが急ぎ足でやってきた。
「プリンス、今知らせに行こうとおもってたんだけど」
「ハチから聞きました。ビルは何の用事ですか?大統領と会うのは、できれば断った方が良いと思っているのですが」 望はビルが言った事を伝えて、どうやらもうすぐ迎えがくるらしい、と付け加えた。
「それは、強引ですね」プリンスはため息をついて、ミチルとリーに知らせるように自分のLCに命じた。それから望を見た。
「望はどこまで大統領に話すつもりですか?」
「どこまでっていうのはハチの能力の事だよね?」
「それと、望の能力についても聞かれるでしょうね」
「僕の能力?」
「あの時望は木と意思の疎通ができる事を隠していませんでしたからね」
「そうだったっけ?う~ん。キング大統領になら話しても良いと思うけど、信じてくれるかな?頭がおかしいとか言われて精神分析とかに回されたらいやだな」
「私としては信じてくれない方が安全だと思いますが、多分それはもう無理でしょう。私はキング大統領を、政治家としては立派な方だと思います。しかし立派な政治家というのは個人よりも全体の利益を大切にしがちですから、望の安全を第一に考えると、大統領を信じきれないのです。曖昧にできることは曖昧にしておいた方が良いと思います」
「わかったよ。できるかどうかわからないけど、余分な事は話さないように気を付ける」望がそう約束していると、ミチルとリーが部屋にやってきた。
「また大統領に会うんだって?今度は俺も行っていいかな?」 リーの父上は無事に解放されて現在ニューヨークに滞在している。リーはまだプリンスの家に滞在しているが、状況がもう少し落ち着いたら家族と合流することになっている。
「リーはスペースワンに乗りたいだけでしょ?」
「それもあるけど、今度の事では世話になったから大統領にお礼を言いたいんだ」 ミチルの突っ込みに珍しく真面目な調子でリーが言った。
「何もリーがお礼を言う必要はないと思いますが」 プリンスが肩をすくめて言ったがリーの気持ちは変わらないようだった。
「地下玄関にウィリアム キャンベル様がいらっしゃいました」 セキュリティの声に全員で地下に向かった。てっきりビルが迎えに来たと思っていた望達は、玄関にビルと、帽子をかぶってサングラスをかけた、どこかで見たような姿を見つけてぎょっとした。
「ごめんね。わざわざ来てもらうのも悪いからこちらから行くってきかなくて」 ビルが済まなそうに言った。
「ようこそいらっしゃいました、大統領。どうぞお入りください」 どこか諦めたような表情のプリンスがそう言ってビルと大統領を家に招き入れた。




