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171. エヴァとのひと時



かつて私の時間(とき)はひとつだった


あなたと会って私の時間(とき)は二つに分かれた


あなたといる幸せな時間(とき)


あなたのことを想う幸せな時間(とき)


やがて2つに分かれたまま時間(とき)は変わった


あなたといる寂しい時間(とき)


あなたのことを想う寂しい時間(とき)


そして今も時間(とき)は二つのまま


あなたを愛したいとあなたを探す時間(とき)


あなたを憎みたいとあなたを探す時間(とき)


私は夢見る


私の時間(とき)がまたひとつになることを


私の時間(とき)が再び私だけのものになることを



余韻を残した憂いのような歌声が消えて、暫くの静寂の後、大きな拍手が起こった。薄い布を体に巻き付けて妖精のように見える歌手がくるっと回ってお辞儀をすると大きな木の陰に隠れた。


「やっぱりエヴァはいいな」 リーが満足そうに言って、歌手の消えた木を未練がましそうに見ている。

「そうだね。本当に妖精みたいだった」 望も歌の余韻に浸りながらうっとりと言った。


「昨年はブリジット バンだったんだが、彼女の歌も本当に素晴らしかった。これまでで最高の観客数だった。でも今年はこの会場の人気もあって、昨年の記録を軽く超しそうだよ」ギリアンが得意そうに言った。


「しかしよくエヴァがこういった会場でのパフォーマンスを承知しましたね? かなりプライドが高いと聞いていますが」 プリンスが訊いた。


「そうなの? この会場のどこがいけないの?」 望は自分の創った木々と花々に溢れる美しい会場を見渡して首を傾げた。


「エヴァは上流階級の出身で、これまで地上の大会場にしか出場しないことでも有名だったのよ」 ミチルが教えてくれた。


「へえ、そうなんだ。ギリアン、頑張ったんだね」 望の素直な賞賛にギリアンはちょっと照れくさそうに笑った。


「エヴァとブリジットは仲が悪いだろ? 最初はブリジットの後の舞台なんて絶対にやらないって言ってたから、大変だったよ」


「確かに地下出身のブリジットと上流階級のエヴァとは犬猿の仲だというのは俺も聞いたことがある。一体どうやって説得したんだ?」リーが興味を惹かれたように訊いた。


ギリアンはちょっと考えるようにしてから、声を潜めてここだけの話だよ、と言った。


「勿論最初は断られた。それでこう言った:

『貴方ならブリジットには及ばなくてもそれに近い数字が出せるんじゃないかと思ったんですけどね。他の歌手じゃ去年との差が怖くて誰もやりたがらないんですよ。まあ、無理もないですけどね。貴方でもだめですか。残念だなあ。私は貴女ならいつかブリジットの域に達すると期待してるんですが』

 それで引き受けてくれましたよ」 そう言って悪い笑顔を見せた。


「何てこと言ったんですか。彼女とエヴァの仲の悪さは有名じゃないですか」ミチルが呆れている。


「お陰でここで彼女の歌が聴けただろう?」


「でも、ギリアンは彼女のフアンだって言ってなかった?嫌われたんじゃない?」望はちょっと心配になった。


「確かに私は彼女の歌のフアンだけど、別に個人的に付き合う可能性があるわけじゃなし、嫌われても特に影響ないからな」商売の方が大切だ、とギリアン。そんなものか、と素直に感心する望。


「信じちゃダメですよ。ギリアンは結局ショーの後、貴方のほうがブリジットより素晴らしかったとかなんとか言って、しっかりエヴァと仲良くなってやがるんだから」 ギリアンの後ろに立っていたスタッフの男が悔しそうに暴露した。


「まあ、いいじゃないかそんなことは。良かったらエヴァに会ってみるかい?」 ごまかすようにギリアンが訊いた。


「いいんですか!」 リーが目を輝かせた。ミチルが白い目で見ているが気が付かないようだ。


「いいよ。ここではなんだから後で控室に案内させるよ」ギリアンはそう言って別の客に挨拶しに行った。


「やっぱり来てよかっただろ?」 リーが望達を振り返って言った。


「そうですね」 プリンスが微笑んで同意した。


「まあ、気分転換にはなったわね」 ミチルも渋々と言った感じで頷いた。


 あの噴火事件から2日後の週末、ギリアン ジョーンズがブレイブ ニューワールドの望が作成したリトリート内で若手の人気歌手エヴァ アンダーソンのコンサートをやるから見に来ないか、と連絡してきた。望はそんな気分ではなかったが、エヴァのファンだというリーが強烈に押しまくって、結局4人でやって来たのだ。


「僕も来て良かったと思う」望も心から言った。 素晴らしい歌と踊りに引き込まれて、久しぶりにすべてを忘れられた。


 その後スタッフに案内されて控室のエヴァと会い、短く言葉を交わした。エヴァはプリンスの顔をどこかのパーティで見たことがあるらしく、大変愛想が良かった。是非他のコンサートにも来て欲しいと誘ってくれた。


「よし、また行こうぜ」 勢い込むリーにミチルが冷たい目を向けた。


「あれは、プリンスへのお誘いよ」


「俺の方を見て是非、って言ってたよな?」 リーが望を見て同意を求めた。


「そう、だったかも」 自信なさげに望が言った。


 他愛ない話をしながら久しぶりにくつろいだ週末だった。














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