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170. 罪と罰

 「生物が住むのに最適の環境を持った惑星がどれだけあると思うんだ?これだけ大きな宇宙だ。数字で言えば巨大な数字になる。しかし、確率でいうと1パーセントにも満たない。我々が地球のような惑星を求めて宇宙に飛び出しても見つけられる可能性はほとんどない。そんな貴重な惑星に住むのに、人類は相応しいと思うか?人類はこの美しい星に生えたかびのようなものだ。少しなら薬にもなったかもしれないが、いつのまにか地球を覆って腐らせてしまうかびだ。ほうっておいたらかつての美しさは失われ、何も住めない荒れ果てた場所になってしまう。私達はこの地球に生きる者すべてを救うために活動しているんだ!」

 

 望達はあの窓のない部屋に戻って、マグマ発電所の技術者として潜り込んでいたVHRに対する情報局の取り調べの様子を見ていた。プリンスが発電所の所有者一族であるため、特別に許可されたのだ。望は遠慮しよう(したい)と思ったのだが、プリンスの圧力に負けて一緒に見ていた。望がいるので、ミチルもいる。

 独善的な言い分に気持ちが悪くなってくる。プリンスを見ると、全くの無表情だった。思わず彼の手を握った。ビクッとしたように望を見て、かすかに微笑んで、大丈夫です、と小さく言った。


 連邦各国で刑務所が廃止されて久しい。犯罪は先天的、或いは後天的な精神病が原因とされ、重犯罪者にはすべて強制治療を施される。人格を失い、罪の償いのための労働につく。軽い受刑者は資源の無駄遣いを避けるため最小限の生命維持装置をつけたカプセルで眠りにつく。バーチュアルプリズンである。毎日繰り返し更生用プログラムを見る。多くのプログラムは被害者として犯罪にあうところからはじまる。更生がなったと認められた受刑者には社会復帰用のプログラムが与えられる。釈放されても、犯罪履歴者は子孫を持つことを許されない。

 今回のようなテロ襲撃の犯人は間違いなく重犯罪となるだろう。彼らは治療と称される人格の再形成で自分のやったことを忘れるのだ。犠牲になった人や生物の気持ちを知ることもなく。望は彼に溶岩に埋もれた木々の気持ちを感じて欲しい、と思った。


 「私は全く見たことのない人間です。もっともうちで働いている人間で私が個人的に知っているのはごくわずかですが」 プリンスが取り調べのイメージから眼を逸らして言った。


 「全社員のバックグラウンドをもう一度精査することにしましたので、今後はグリーンフーズからこのような者が出ないように努めます」 プリンスは部屋にいたスミス氏に向かって言った。


 「グリーンフーズ程の大企業となると従業員数も莫大ですから、こういった人種が紛れ込むのもある程度仕方がないでしょう。実を言うと、今回の襲撃で、数人の連邦政府職員が捕まっています。ごく末端の人間で、大した情報を盗める地位の者はいなかったのですが、我々も雇用の際の審査をもっと厳しくしなければならないと大統領からおしかりを受けましたよ」 苦笑しながらスミス氏が言った。


 そこへ大統領が入って来た。


 「待たせてすまない。ゆっくり話したい事もあるんだが、思ったより後始末が長引いてね。君達も疲れただろうから今夜はとりあえず家まで送らせよう。私の方の後始末がひと段落ついたら、改めてお礼をするよ」 お礼、という言葉が微妙に脅されているように聞こえる。


 スペースワンは一旦ニューヨークに引き返すということで、望達は4人乗りの小型ジェットでスペースワンからネオ東京に向かった。オートパイロットだが、ビルが一緒についてきた。必要ないのに、何故だろう、と思っていたら望達を送りついでにブレナン博士を回収すると言われて納得した。博士は迎えが来なければなかなか戻らないと大統領はわかっているらしい。


 ネオ東京の家に戻り、ぶつぶつ言う博士を送り出して疲れ切った3人は、何があったか聞きたがるリーに、明日説明すると約束して、とりあえず休もうと言うことになった。


 『お母さん、お帰りなさい』 望はカリの声に漸く気が緩んだ。カリの葉っぱをいつもより長く撫でながら、カリと、多くの木々を感じた。それが疲れて空っぽになっていた心を満たすのを感じて、いつの間にかカリの鉢を抱くように眠っていた。


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