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164. 皆が苦手なあの黒い虫

「もし失敗した場合の責任はすべて私がとる。全力でやりたまえ」 大統領がそう言うとスミス氏は立ち上がって、大統領に敬礼すると、急いで部屋を出て行った。


「やはり君のLCは凄いね。悔しいが、ミスターウォルターが天才と呼ばれたわけがわかったよ。我々の現在の技術ではここまでの分析をするのに数日はかかってしまう。その頃には逃げられている可能性が高かった。君達の協力に感謝する。私はしばらく忙しくなるが、できたら君達にはしばらくここに滞在して欲しい」


 大統領はそう言って、部屋を出て行った。望達は顔を見合わせた。


「しばらくって、いつまでだろう?」 望の問いに2人共肩をすくめた。


「捕物が終わるまで?」 ミチルが疑問形で返事をした。


「どのくらい時間がかかるんだろう?」 望がぼんやりと考えていると、以前に見た男性が部屋に入ってきた。確か大統領のアシスタント、いやパーソナルトレーナーだったか。名前は…憶えてない…困ってちらりとプリンスを見るとプリンスは望の言いたいことがわかったのか、首を振った。プリンスも知らないようだ。


「大統領が暫く忙しくなるので、申し訳ありませんが、何かご希望があれば私が伺います」


「失礼ですが、先日はお名前を伺わなかったと思いますので、伺っても宜しいですか?」 プリンスの言葉に、名前はもともと聞いていなかったと知って望はほっとした。


「ああ、これは失礼しました。私は大統領の公務以外のアシスタントをしておりますウィリアム キャンベルと言います。どうかビルと呼んでください」


「それではお言葉に甘えてどこか外の見える場所で待たせていただけますか?」 プリンスの願いに、ビルは3人を先ほどまでいた2階のテラスへと案内した。軽食を用意すると言ってビルがテラスを離れた後、望はプリンスを見た。いつもと変わらない落ち着いた美貌が、望を見て微笑んだ。


「望が心配してくれているのはわかっていますが、私は大丈夫です。私も、私の一族も、これまでずっとVHRを捕えようと手を尽くしてきました。しかし彼らは叩いても叩いてもわいてくるあの黒い虫みたいなものですから、もうあまり期待することもない代わりに、うまくいかなくてもそうがっかりすることもありません」 プリンスの言葉に切なくなった望が眼を逸らして空を見た。かなりの上空を飛んでいるらしく空には雲一つなかった。


「そういえばあの黒い虫には脳がないそうですよ。だから頭を潰しても死なないそうです。もしかしたらVHRには脳も、指導者もないのかもしれませんね。だからどこを潰しても別の部分は生きていられるのでしょうか」 しばらくしてから、プリンスが言った。ミチルはあの虫が苦手らしく、気持ち悪そうに聞いている。


「それでも、一斉に全身を攻撃したら死ぬよね?」望は目を瞑って作戦の成功を祈った。



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