163. シャンシェンとVHR
誤字脱字のご報告有難うございます。これからもよろしくお願いします。
「アレって…」 プリンスの家の地下で迎えの車に乗った望達はネオ東京を出て、千葉の大型貨物の発着場に着いた。昔は旅行客が使う飛行場だったらしい開けた場所だ。そこで待っていた輝く機体を見て望が驚いている。
「スペースワンですね」 とプリンス。ということは…
「大統領って結構暇なのかしら?」 ミチルが呆れたように言った。
望達を乗せた車はやはりその機体の横に停まった。すぐにドアが開いてタラップが降りてきた。プリンスを先頭に、望、ミチルと階段を上がると、そこにはもう見慣れたキング大統領の顔があった。
「やあ、よく来てくれたね。詳しい話はここを離れてからにしよう」 大統領はそう言うと、前回と同じように見晴らしの良い2階のテラス部分に案内してくれた。スペースワンはすぐに離陸し、地上がみるみるうちにジオラマのようになっていく。
リーがいたら喜んだだろうな、と思いながら景色を楽しんでいると、すぐに眼下には青い海が広がるばかりになった。
「もうそろそろ良いかな。早速だが、作戦会議といこうか?」 大統領に促されて円形のテーブルがある会議室のような部屋に移った。テーブルには紺のユニフォームを着た連邦政府の職員らしい男性と女性が既に席についていたが、大統領が入っていくと立ち上がった。 大統領は軽く手を挙げて彼らに挨拶をすると、座る様に促した。望達にも好きなところに座る様に言われたので3人は大統領と向かい合った席に、望を真ん中にして並んで座った。窓のない部屋で、明るいが望は少し息が詰まるような気がした。多分シールドがかかっているのだろう。
「では、これまでわかっていることを説明してくれ」 大統領の言葉に頷いて立ち上がった男性職員が、情報局のアダム スミスと名乗ってから説明を始めた。ミチルが(見え見えね)と言って苦笑している。望は何のことかわからなくて首を傾げた。
「シャンシェンについてわかっていることはそう多くありません。かなり古くから続いてきた反政府組織で、連邦成立前は中国国内の反政府組織でした。結成当時は弾圧的な政府に対して人民による自由な政治を、といいう謳い文句でしたが、中国が完全に民主化した後、勢いを無くしていました。しかし、中国政府が連邦の一員となることを決めた時に、中国の完全自立をスローガンにして、勢いを盛り返しました。 今ではその活動を中国から連邦全域に広げているのですが、それを可能にしたのは全世界的テロ組織VHR(Voluntary Human Reduction)と繋がったことによります。シャンシェンとVHRの目的は一致しませんが、とりあえず、無差別破壊活動を行う、と言う点で一致していると思われます」
「VHR」と言う名前が出た時に望は思わずプリンスを見た。プリンスの両親を殺したのはVHRによるテロだった。 プリンスは無表情で説明を聞いていた。望も気を取り直してスミス氏を見た。
「今回の中国政府によるシャンシェン支部の発見はVHRの壊滅を目指す連邦政府にとっても大きな前進です。幾つか新しい手掛かりも見つかりました。できれば、この情報が新しいうちに彼らを叩きたいと思い、大統領のご提案で、皆さんに御協力をお願いした次第です」 とは言いながらもどこか不満そうである。大統領の提案である以上反対はしないが、望達に何ができるのか、と疑っているのは明らかだった。
「私達にお手伝いできるかどうかわかりませんが、まずこれまでに掴んでいらっしゃる手掛かりをすべて天宮君のLCにいただけますか?」 プリンスは無表情のまま、スミス氏に要求した。
スミス氏は大統領の顔を見てから、いかにも渋々と言った様子でデータのコピーを許可した。
「望、ハチにこれまでのデータの分析を頼めるかな」 望はプリンスに言われてびっくりして頷いた。プリンスはいつもハチに直接お願いしているので、望を通したことに驚いたのだ。数分後、ハチのデータ分析の結果がホロイメージで正面に現れた。丸い地球のあちこちに赤と黄色の矢印が立っている。
「これまでのデータでわかる限りの拠点です。赤は確率80%以上、黄色は50%以上となります。各拠点の詳しい情報が必要ですか?」 ハチの声が、心なしかいつもより気取って聞こえる。
「あ、ああ、頼むよ」 スミス氏が驚いたように答えた。
「情報局のデータバンクに送りました」 間髪を置かずに聞こえたハチの声にミチルが額に手を当てた。
「うちのデータバンク?」 スミス氏がぎょっとしたように訊いた。それから気を取り直したように自分のLCを見た。
「これが本当なら、彼らに大打撃を与えることができる」 ざっと情報をみてから興奮したように言った。
「情報の精度は99.5%です」 ハチの気取った声が少し気分を害したように請け合った。
「大統領、これらの拠点を一斉攻撃する許可を戴けますか?」迷った後に、このチャンスにかけることにしたらしいスミス氏は大統領に向き直って問いかけた。