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161. 大統領の作戦勝ち

 「キング大統領のメッセージはそれだけですか?」


 「いやいや、これはメッセージじゃなくて情報提供だよ。大統領のメッセージは、もし天宮君が希望するなら、ライ氏を解放するように働きかける用意がある、ということだ」


 思いがけない博士の言葉に望が博士を見た。


 「地方政府内の事件に連邦政府が口出しをすることはあまり歓迎されないのではありませんか?」プリンスはそう言ってあまり興味がなさそうにコーヒーを飲んでいる。

 

 「そうなの?」 望の問にリーが頷いた。


 「ああ、連邦に関わってない事には連邦政府は口出ししない、というのは連邦政府設立当時からの暗黙でもない了解だからな。特に中国政府は介入に抵抗するだろう」


 「それはそうなんだけどね、このテロ組織、シャンシェンは本拠は中国の山岳部に置いているらしいが、活動は連邦中にわたっているし、証拠もある。だからこの取り調べには連邦政府が口を出す法的根拠があるそうなんだ。それで、ライ氏の取り調べも連邦に任せるように交渉できると大統領は言ってる。 一旦身柄を連邦に移せば、連邦ではライ氏がシャンシェンと関わりのないことはわかっているからじきに疑いが晴れたと発表して解放できる、と言ってるよ」 


 どうだい、といように博士が望とプリンスを見た。


 「それができるなら‥」 望が言いかけたのをプリンスが止めた。


 「成程確かにそれなら連邦政府が介入できるかと思います。ただ、テロ組織との関係は晴れたと発表されても、ライ氏の政治的生命は終わります」 難しい顔をしてプリンスが言った。


 「それはもうしょうがないんじゃない? とにかく中国政府の興味がシャンシェンから、ドクターが副業にしていた一般向けの遺伝子操作の方に向かないようにするのが今一番大事なんだから」 博士はそう言ってもう一度リーを見た。


 「僕がリー君を見た時、何の予備知識もなかったけどGEを疑ったんだ。なんというか、成功したGE特有の雰囲気がある。疑問に思われて調べられたらすぐにバレると思うよ。アメリカ地区なら観察ですむが、中国はそうじゃないだろ?」 博士の言葉にリーが答えた。


 「研究室でモルモットになって一生を終える場合が多いと聞いている」 


 「そんな事は絶対にさせないよ」 望がリーの傍に行ってそう言った。リーは望を見て、少し笑って頷いた。


 「プリンス、リーのお父様の仕事のことは残念だけど、無事に開放されて、リーも無事なら後はなんとかなると思うんだ。大統領にお願いしようよ」 望の言葉に渋々と言った様子でプリンスが言った。


 「そうですね。ところでキング大統領はあくまでも好意で力を貸してくださるんですよね?」 プリンスが確かめるように博士を見た。


 「勿論、そうなんだけど」 言い淀んだ博士をプリンスが目を細めて見た。


 「まさか何か条件があるとはおっしゃいませんよね?」


 「そんなことはないよ!ただね、シャンシェンの捜索を中国政府から横取りしたら、なにか成果をあげないと政治的にもまずい、と言うんだ。ところがシャンシェンは神出鬼没でね、どの国も手を焼いている。そこで、もし望君にちょっと手伝ってもらえたら有り難い、と言ってた。何しろ中国政府より先に奴らを捕まえないとライ氏に関して他にどんな証拠が出てくるかわかったものじゃないから急ぐ必要がある、と伝えてくれとも言ってたな」


 「僕? 僕に手伝えることなんてあるのかな?」 


 「望じゃなくて、ハチでしょ」 ミチルがそう言って博士を睨んだ。


 「ハチ? ああそうか。ハチなら確かにお手伝いはできるかも」 


 「望、別に大統領の言う通りにする必要はないのですよ。あくまでもご厚意だとおっしゃってるのです。それに、ライ氏は解放されるだけで政治的地位が元通りになるわけでも、連邦政府内での地位を約束して下さるというわけでもありません」 プリンスが望に言い聞かせるように言った。


 「連邦政府での地位? それはちょっと僕では何とも言えないよ…」 博士が情けない声を揚げた。


 「そんなことができるの?」 望はちょっと考えてから首を振った。


 「そんなことは大切じゃないよね。僕はライ氏とリーが無事なら良いや」 望はそう言うと博士に向き直った。


 「ブレナン博士、僕とハチにできることならお手伝いしますので、ライ氏を少しでも早く安全なところに移してくださるよう、キング大統領にお願いしてください。良いよね、リー?」 望の確認にリーが、悪いな、と頷いた。



 「ああ、わかったよ。君ならそう言ってくれると思ってた」 博士はプリンスをちらっと見てから自分のLCをプライベートモードにして誰かと連絡をとった。


 「すぐに中国政府に連絡して連邦政府がこの件を取り扱うということだ。今日中にはライ氏をアメリカに移動できると思うよ」


 博士の言葉に望とリーがほっと息をついた。 プリンスとミチルはなんだか不満そうだ。


 「ほんとに望は…」ミチルは何かを言いかけたが、諦めたように口をつぐんだ。


 「この交渉はブレナン博士を望に宛てた大統領の作戦勝ちですね」 プリンスが苦笑した。

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