表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/295

160. ブレナン博士の訪問

 言葉通り翌日早朝にブレナン博士が訪ねて来た。セキュリティから連絡を受けたプリンスが玄関で博士を出迎えた。 上機嫌に挨拶しようとした博士は、不機嫌を隠そうともしないプリンスに固まった。


 昨夜プリンスに博士から連絡があったことを伝えた時は何か考え込んでいたが、それほど不機嫌な様子ではなかった。珍しく不機嫌を隠そうとしないプリンスに望の方が驚いた。


 「朝からお邪魔して悪いね」 プリンスの機嫌を伺うように博士が言った。


 「何か余程大切な用事がおありなのでしょうから、仕方がありません」 まるで余程大切な用事でなかったら承知しない、とでもいうようにプリンスが答えたので望は心配になった。


 「博士、おはようございます。朝食の用意ができていますからどうぞ」 プリンスの顔色を見ながら、とりなすように望が博士を招いた。博士はホッとしたような顔をして急いで望に続いた。リビングルームに案内して博士を先に通してからプリンスを振り返ると、怒っているのかと思ったプリンスは望の心配そうな顔をみてにっこり笑ってウィンクした。どうしてかはわからないが、どうやらプリンスは本気で怒っているわけではないらしいと気が付いてほっとした。


 リビングにはミチルとリーが朝食を整えて待っていた。


 「おはよう、ミチルさん、リー君」 いささか元気を取り戻した博士が2人に挨拶をした。


 「おはようございます」


 「博士、早いですね。朝から一体何の用事ですか?」 まだ眠そうなリーが単刀直入に訊いた。


 「ちょっと相談があってね。でもその前に朝ごはんを戴いていいかな?僕は徹夜で、昨日から何にも食べてないんだよ」 テーブルの上のマナフルーツや飲み物を見ながら博士が要求した。


 「僕達もこれから朝ごはんなんです。どうぞおかけください」 望の言葉に博士が早速空いている席に座って、目の前のフルーツに手を出した。器用にナイフとフォークを使って赤いフルーツをスライスすると、早速食べ始めた。


 「これは、ベーコンだね? 血管を塞ぐ脂を摂取しないでこの味を楽しめるなんて嬉しいね」 博士はテーブルに置かれたパンを幾つか取り、更に他のフルーツをスライスし始めた。気に入ったらしく、何も言わずに食べることに集中しているようだ。 

 あっけにとられてその様子を見ていた望達も、視線を交わしてから、諦めて食べ始めた。 しばらくは「うまい!これは何の味だ?」 などと博士の独り言だけが続いた。



 テーブルに積まれて結構な量のマナフルーツが殆ど皆のお腹に入ってから、食後のコーヒーを飲みながらプリンスが口を開いた。


 「ブレナン博士。朝食も召し上がったことですし、そろそろご用件を聞かせていただけますか?」

 プリンスの声のトーンに博士がちょっとビクッとした。


 「そうだね。素晴らしい朝ごはんを有難う。本当に美味しかったよ。市場に出ているのより美味しいね。やっぱり望君が育てているからかな?」なかなか用件に入らない博士を見て望は不安になった。よっぽど言いにくい用件のようだ。


 「博士、大統領からのメッセージがあるとおっしゃったそうですね? もしかしたらリーのお父上のことでしょうか?」 埒が明かないと見たプリンスが強引に話を変えた。


 「まあ、そうなんだ。大統領は君達には借りがあると言って、僕に頼んで来たんだよ。僕はいやだったんだけど、いや勿論君達には会いたかったんだよ。ここに来れたのはうれしいんだよ?」 博士がいつになく焦っている。


 「ブレナン博士、よろしければ用件を教えてください。ご存知と思いますが、リーは今お父上が大変な目にあっていらっしゃるので私達もあまりのんびりする気にはなれませんので」 プリンスの催促に博士は漸く心を決めたようにリーを見た。


 「大統領専属情報局によると、ノエル イェンが不法な遺伝子操作の実験を父親のルイ イェンから引き継いでいたのは間違いないそうだ。かなり大掛かりな実験をしていて、資金がかかったんだろうね。資金稼ぎのために簡単な遺伝子操作を依頼人のために行っていた。かなりの数のGEベビーが生まれている。 ノエル イェンはテロ組織とは繋がっていなかったんだが、 実験が成功し始めて組織に目をつけられた。組織の要請で兵隊を作り始めたところで何か事故が起こって病院も研究所も焼けてなくなった。彼女は研究を救おうとして逃げ遅れて亡くなった」博士は一息でそこまで言って、息をついた。


 「情報局にはライ氏がルイ イェンを探していたという記録があるそうだ。それからして、ライ氏は代わりに娘のノエル イェンを探し当てたんだろう。目的は誰にでもわかるだろう?」 博士は無表情のリーを見て肩をすくめた。


 「それで、大統領はその情報を私達に与えて、どうされたいのでしょうか?」 プリンスが冷たい声で訊いた。


 「大統領はこの情報を中国政府に渡すつもりはないと言っていたよ」


 「その代償は?」 プリンスの問いに博士は首を振った。


 「特に代償なんて求めてないと思うよ。借りを返したいんだろ」博士の言葉に今度はプリンスが首を振った。


 「それはどうでしょうか。借りを返したことにはなりませんしね。この件は中国政府に言わないのではなくて、言えない、のでしょうし」 プリンスの言葉に望が首を傾げた。


 「どうして言えないの?いや、言えないのは有難いんだけど」


 「私はドクター イェンの病院の焼失のタイミングが良すぎると思っていました。リーが生まれてすぐ、ライ氏が政府代表の有力候補になった時期です」


 「どういうこと?」 望がきょとんとして尋ねた。


 「連邦政府は中国のような大地域の代表には必ず調査を入れます。ライ氏は中国政府のなかでは穏健派で、連邦政府との関係も良好です。連邦政府にとっては望ましい候補だったはずです。その彼を調査していてテロ組織の兵隊造り計画に気が付いた。下手に中国政府に知らせればライ氏は代表どころか、失脚するかもしれない。なにしろリーはすでに生まれていましたしね。中国地区は派閥が多くて扱いにくく、ライ氏のような代表を逃したら次はどうなるかわからない。それで、決断したんでしょう」


 「決断?」 望はなんとなく話がわかってきたが、わかりたくないような気がしてミチルとリーを見た。リーは真っ青になっている。ミチルは望を見て、肩をすくめた。

  

  「つまり、タイミングよくドクター イェンの病院を消滅させたのは連邦政府の手先だということよ」


 「ドクター イェンを殺したってこと?」 望が恐ろしいものをみるようにブレナン博士を見た。


 「僕は何も知らなかったんだよ。 キング大統領も、大統領になるまでは知らなかったそうだ。それに誰も死ぬはずじゃなかったのに、ノエル イェンが焼けている建物に入って行ったと記録にはあった」 


 

 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ