159. カリに相談
翌朝、4人で登校すると学校の周囲にちらほらとメディアのものらしいドローンが見えた。ネオ東京では勿論ドローンを飛ばすのに許可がいるのでどのドローンもメディアの許可書を見えるところに付けている。彼らからリーの姿を隠すようにして急いで学校の敷地内に入る。敷地内までは追いかけて来れないので、門の外辺りに待機しているようだ。
「折角試験が終わったってのにこれじゃあ遊びに行くこともできないな」 リーがぼやいた。
「暇なら私が稽古をつけてあげましょうか?大分体がなまってるんじゃないの?」 ミチルがちょっと馬鹿にしたように訊いた。
「別になまってない。でも、稽古はいいな。今度こそミチルを負かしてやるか」 リーがいつも通りの元気な声で言った。
「いつまでも夢をみていられるっていいわね」 ミチルは皮肉っぽく言ったがどこかほっとしているようだ。
望とプリンスはこちらをチラチラ見る学生を睨み返していた。望に睨まれた生徒たちは慌てて眼を逸らしている。プリンスに睨まれた生徒たちは何故か顔を赤くしてうつむいていた。
放課後、プリンスが家から車を廻したので、望達はこれまで使ったことのない学校の地下出口から家へ帰った。ミチルとリーは早速勝負をつけると言ってリトリートに向かった。プリンスは何か仕事があると執務室へ行ってしまった。 一人になった望は自室でカリを相手に事情を話して自分の心配事を聞いてもらっていた。カリは内緒の心配事を聞いてもらうには最適なのだ。なにしろ秘密を漏らす心配がない。
「だからね、もし誰かがリーのお父様と遺伝子操作の実験との関係を疑って、リーのDNA検査をしなくてはならない、って言いだしたら困るんだよ。リーには何の責任もないのにね」
『リーのお父さんがいけないの?』カリはよくわからないようだ。
「リーのお父様は多分リーが普通より強い子供になるようにと思ったんだろうね。それが悪いかどうかは僕にはわからないけど、今は遺伝子に手を加える事は決まりで禁止されているからね。見つかったらいろいろと罰があるんだ」
『悪いかどうかわからないのに罰があるの?』
「そうだね。皆で決めたことだから、やっぱりそれを守らないのは悪い事なんだろうね」
『じゃあリーのお父さんが悪いことをしたの?』
「そうなるかな。でも、リーは自分で何かしたわけじゃあないから、リーは悪くないよ。それなのに見つかったらいろいろとひどい目にあわされるかもしれないんだよ」
『悪くないのにひどい目にあわされるの?』 カリがちょっと怒っている。
「うん、それは間違ってるよね。だから僕は心配なんだ」
『わかったの。お母さんが心配なら、カリも心配』
「カリ、有難う。カリに相談してすっきりしたよ。やっぱり悪くないリーがひどい目に合うのは間違ってるよね。どうやってもそれは防ぐよ」
『カリも一緒にがんばる』
「有難う。その時はお願いするね」 望はそう言ってカリの葉を撫でた。カリと話して漸く頭の中がすっきりした。そうだ、最悪、望はリーをA&Aに逃がすことだってできる。勿論それは最後の手段だが、リーをどこかの研究所に渡すことは絶対にしない、と心に誓った。
「望様、ブレナン博士から通信が入っております」 ハチの声が言った。
「ブレナン博士?なんだろう?ここで受けるよ」 望がそう言うと、相変わらず少しくたびれた白衣を着た博士が現れた。
「やあ、天宮君、キング大統領から聞いたけど大活躍だったそうじゃないか」
「キング大統領から? 別に大活躍なんかしてませんけど」 望が首を傾げた。
「おっ、カリちゃんもいるね。元気だったかい?会いたいなあ」
『カリは会いたくない』カリが答えたが、勿論博士には聞こえていない。
「博士もお元気そうですね。今日は何か御用ですか?」
「そうそう、実は大統領から頼まれてね。ちょっとそちらに伺ってもいいかな?」
「実は今はちょっと忙しいのですが」 リーがいることを考えて望が断ろうとしたが、博士が続けた。
「今そちらにリー ライ君がいるよね? 彼の事とも関係があるんだ」意味ありげに言われて言葉に詰まった望に博士は明日の朝にはそっちに着くから朝御飯を一緒にとろう、と言って通信を切った。