153. アフリカでのんびり
「じゃあ、元気でね?何かあったら連絡してね?」 望はサバンナのオアシスとして佇む大きなマンゴーの木に挨拶して車に乗り次の保護区に向かった。 完全に箱型だったトラックと違って屋根が収納できるタイプの大きなジープは草原を走るのに気持ちがいい。時折動物が追いかけてくる。
マラドーナの件は大統領と連邦軍に任せたが、せっかくアフリカまで来たので以前にアフリカに移った子供達(果物の木)の様子を見に行くことにした。今回のマラドーナのような大掛かりな犯罪はなくても、自然保護区にこっそり侵入して密猟や採取をする人間はいると聞いて心配になった。もっとも、半分は休暇気分だ。皆結構疲れたのでのんびり自然保護区をめぐるのに誰も反対しなかった。ドミニクは望の子供達に『挨拶』すると言って一緒についてきた。これまでのところ彼はやはり望程ではないものの、彼らと意思を通じることができた。
「それにしてもどの木もなんだか大きく広がって、動物のオアシスみたいになってるな。いったいどうなってんだ?あんなに集まってライオンやチータに狙われないのか?」 リーが心配そうに訊いた。
確かに望達が植えた木の周りにはガゼルやインパラ、キリンまで、多くの草食動物が集まっていた。元はマンゴの木だったはずだが、通常のマンゴの木より縦にも横にも大きく伸びて多くの実をつけている。
「僕もそう思ったんだけど、何でも肉食動物の嫌いな匂いを出しているんだって。だからあの子の周りにいる限り肉食獣が寄ってこないそうなんだ」 望の言葉に皆が驚いている。
「そんなことができるのですか?それは凄いですが、どうやってそんなことができるようになったのでしょうか?」 プリンスが不思議そうに訊いた。
『カリが教えてあげたの』 カリが少し得意そうに言った。ドミニクがカリを見て感心しているが、他の者には聞こえていないので、望が伝えた。
「へえ、カリ、凄いな。じゃあカリもできるんだな?」 リーがカリに向かって訊いた。
『カリにはそんなこと簡単。もっとすごいのもできる』 もっと凄いのって、何?なんだか怖い、と思う望だ。
「勿論カリはできるよ。僕もカリが皆に教える事が出来る事は今回まで知らなかったけど、カリがどうしてそんなこと出来るようになったのかは知っているよ」 望がカリを見ながらからかうように言った。
「どうして出来るようになったのか、わけがあるの? うちの木もできるようになるかしら?」 ミチルが興味を惹かれたようだ。
「カリはゴーストをやっつけようとしていろいろ試したんだよ。あんまり酷いのは駄目って
言ったのに結構酷い匂いを出してたよね?」 望がカリをちょっとにらんで暴露した。
「ゴーストに?」 ミチルが何だか嬉しそうに笑った。望がムッとした顔で見ると、笑いやんだがまだ嬉しそうだ。ミチルはいつもゴーストに避けられているので面白くないのだ。
「ごめんなさい。でもゴーストはちょっと生意気だからいい薬よ。どうせ先に手を出したのはゴーストの方でしょ、ねえカリ?」
『そうなの。止めてって言うのにいつもカリの葉っぱを齧ろうとするの』
「まあ、ゴーストは猫だから、本能的に葉っぱとか齧りたいと思ってもしょうがないんだけど、僕もカリは齧らないように何度も言ったんだよ。でもなかなか言う事を聞いてくれなくて、ごめんね」 望がちょっと申し訳なさそうにカリに言った。
「ほらやっぱり、ゴーストがそんなことしようとしたのね。カリ、ガツンとやっていいわよ」
『うん。カリはガツンとやる!』
「ミチル、頼むからカリを焚きつけないでよ。カリの出した匂いのせいでゴーストは1日フラフラしてたんだから。この頃じゃ、カリには全く近づかないよ」
「しかし、カリは凄いですね。肉食動物の嫌いな匂いを見つけてそれを他の木にも教えるなんて」プリンスが感心している。
「それはそうだと思うけど、元はネコ用だから、ライオンやチータはいいけど、他の種族にも効くのかなあ」
「この辺りなら肉食獣はネコ科のものが殆どだろ?大丈夫なんじゃないか?」 望の心配にリーが答えた。
『お母さん、心配しないで。カリの匂いは他の動物にも効くよ。他の子達にも教えて、皆大丈夫だって』 カリの言葉に望はほっとして皆にも伝えた。
「他の子、ということは他の木にも教えたと言う事ですか?』プリンスの問いにカリは葉を揺らした。頷いたつもりかもしれない。望は世界中で草食動物のオアシスになっている木の事を思ってちょっと遠い目になった。
望達は最後の子と別れを告げ、エジプト郊外の飛行場から帰途に着いたが、ドミニクはもうしばらくアフリカに残るという。ドミニクは望の子供達と話ができたことが余程嬉しいらしく、密猟や、採取などで望の木が煩わされることのないように地元の”知り合い”によく頼んでおくためだと言っていた。なんだか怖い。