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18. 望の夢とマザー

 7月 31日 22:00


 望は誰かに呼ばれたような気がして目を開けた。


(いつの間に眠ったんだろう・まだ仕事中だったはずなのに・しかも夢を見ちゃってるし)


 そこはいつも夢の始まる大樹の下だった。


 ゆっくり体を起こして立ち上がった。


(ちょうどいいから辺りを探検して仕事の助けにしよう)


 誰か人はいないかと辺りを見回すが、小高い丘の上から見渡す限り人も動物もいないようだ。


(これは僕の夢なんだから、少しは僕の思うようになってもいいと思うんだけどな)


 ぶつぶつ言っていると、突然近くの木陰から子供が2人飛び出してきた。


(よし!) 


「君たち、どこから来たの?」


 慌てて声をかけた望を見て二人は立ち止まって、ぽかんとくちを開けた。


「こんにちは。怖がらなくても大丈夫だからね」


「マザーの瞳だ!」女の子が叫んだ。


「マザーの瞳は女の子って決まってるだろ?これは男だろ?」男の子が疑わしげに言った。


 女の子は望を上から下までじっと検分して、


「大きい女の子かもしれないじゃない。変な格好してるけど綺麗だし」


「お前女か?」


 男の子が望に聞いた。


「僕は男だよ」


 望がちょっと怒って答えた。


(いや、自分の夢に腹を立ててもしょうがないし)


「マザーの瞳ってなんだい?」


「そんなことも知らないなんて、あんたどこから来たの?」


 男の子が馬鹿にしたように聞いた。


「ちょっと遠い国から来たばかりなんだ。この辺のことよくわからなくてね。マザーって誰?」


「マザーはそこにいるじゃない」


 女の子が望の後ろを指差して言った。


 望は慌てて後ろを振り向いたが、そこには虹色の葉を揺らす樹がたっているだけだった。


「誰もいないじゃないか」


(からかわれたのかな。もしかしたら僕には見えない妖精がいるとか)


「やっぱりこいつじゃないよ。マザーのこともわからないんだから」


「でも、あの目はマザーの目よ。『黄金より黄金色の瞳』って言い伝えにあるじゃない」


「おまえだって見たこともないくせに」


 二人がまた言い争いを始めてしまった。


(だからマザーって誰?マザーの瞳ってなんだ?)


 自分の夢のはずなのに。ちっとも自分の思うように運ばない夢に疲れを覚えて、背後の樹によりかかった。


 「!」


 その途端、望の頭に電流が流れ込むように一度に大量の意識が流れ込んだ。


 気が遠くなりそうになって地面に座り込むと、漸く流れが止まる。


「大丈夫?」


 二人が心配そうな顔で覗き込んでいる。


「ああ」


「マザーが話しかけてきたのね?」


「本当にマザーの瞳だったんだな」


 二人が同時に話しかける。


「この樹がマザーなんだね?」


「そうだよ」


「前のマザーの瞳が亡くなってから随分長いこと新しい瞳が見つからなくて困ってたんだ」


「早く長老に知らせようよ!」


「男の子だって言ったらびっくりするぜ」


(子供に男の子とか言われたくないんだけど)


「一緒に行こうよ!」


 二人に手を引かれて歩き出そうとした望の胸に何か重いものがドスンと落ちてきた。




 再び目を開けるとそこはマックが望の仕事部屋にと改装してくれたゲストルームのベッドの上だった。


(何だか奇妙な夢だったなあ。あの樹がマザーだなんて)


 ゆっくりと辺りを見回しだ。


 以前に選んだ部屋の両隣の部屋を含めてワーキングステーションを作り、その一角にベッドとオートシェフがはめ込まれている。


 ゴーストのためのコーナーまで設けてあって自分のアパートよりよっぽど広くて居心地がいい。


 胸の重みが動いた。ゴーストがもの言いたげに見上げている。


「もう朝ごはんの時間?」


 さすがにゴースト用のフードディスペンサーまでは用意してなくて、望が食事係である。


「今日は何にする?チキン?」ゴーストが不満そうに首を傾げた。


「ツナがいいの?」ツナと聞いて、漸くゴーストが望の胸から降りて皿の前に座った。


 この部屋のオートシェフはメニューが揃っていて、ゴースト用のメニューも豊富だ。


 望はコーヒーメーカーのスイッチを入れてから、ゴーストにツナをだしてやった。


 コーヒーの香りを楽しみながら今朝見た夢の事を考えた。


 夢、なのかそれとも、マックの言う『前世の記憶』、なのかなあ、とのんびり考える望だ。



「それじゃあマックはあれは現実に存在する異次元の地球だと?」

 朝食後、望はマックに自分の見た夢の話をした。昨日は南極警察の取り調べのためにほとんど仕事にならず、つい夜更かししてしまったのだ。

 マックは望の夢は前世の記憶に違いない、という。   

 マックは望より頭が柔軟なのに違いない。


「その可能性が一番高いと思う。全く失われた過去、という可能性もなくはないが、そんな記録はどの地域の伝説にすらないからね。私たちはタブラ ラーサ(白紙状態)で生まれてくるわけじゃない。人間は誰もが生まれつきある程度の知識を持っていると私は思う」


 パラレルユニバースの存在は広く信じられているので、タイムトラベルと違い設定に無理がない。マック自身がそれを信じられれば、プログラム的には問題ない。


「次元を超えるのですが、夢の中の貴方はそれを信じるでしょうか」


 パラレルユニバースへのワームホールを開ける方法についてはいろいろと説があるが、まだ証明に成功した者はいない。


 現実からラストドリームに導入する部分が自然でないと夢のなかの自分に不信感を残してしまう。


「いろいろと調べてみたが、十分なエネルギーさえ用意できればワームホールを開けることが可能だと信じている」


「それじゃ、一番可能性が高そうだ、とマックが信じられるやり方を教えて下さい」


 マックが強力なマグネティックフィールドを使って次元間にワームホールを創る理論の図解を望に示した。 


 オリジナルプログラムでは一番気を使う導入部分である。望が図を見ながらそれを現実のイメージに作り上げていくのをマックは感心して眺めていた。


「何度見ても感心するな。うちでも超一級のホロプログラマーを雇っているが、君に比べたら赤ん坊が絵を描いているようなものだ。ドリームプログラムだけじゃこの才能は勿体ないな。是非私のところに欲しいな。条件は君の良いようにするから考えてみてくれないか」


 どうももうすぐ死ぬつもりなのを忘れているようだ。



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