152. 後始末
10年ぶりくらいに風邪ひきまして、昨日お休みしました。
大統領に言われたためもう暫く動かず待機することにした望達はリビングルームでハチの見せるマラドーナ自然保護区の様子を見ていた。
大きな3Dスクリーンのように展開されたイメージはお城を中心にして幾つかの視点から捕らえているらしく、細部までよく見えた。
「やっと来たな」 正門の入り口に連邦軍の制服を着た一行が現れ、門に近づいたのを見て、リーが言った。ずっとお城の映像ばかりで退屈になっていたらしい。門の前で押し問答をしているが、護衛は門を開けない。業を煮やしたらしい連邦軍が車で門を突っ切ろうとしたが、高圧電流が流れ、車が止まった。
「あれ、どうするんだろ?門を開いてあげたほうが良くない?」 望が誰に訊くともなく言うが、全員クビを振った。
「だから、望は甘いっていってるのよ。これは彼らの仕事なんだから」 ミチルに叱られた。
「ここは軍に任せたほうが良いでしょうね。すぐに何とかしますよ」プリンスが言い終わらないうちに連邦軍は、別の車を前に出して何かを打ち出し、門を破壊した。
「やったぜ」 リーが楽しそうに言った。
連邦軍はそのまま中に入り、城に向かって進んだ。城では人の動きが見られるが、誰も外には出てこない。城の設計図と各人の居場所は大統領を通じて連邦軍に渡っているはずだ。マラドーナは塔の部分にいる。望達が侵入した部屋のすぐ隣だ。
「ハチ、マラドーナのいる部屋を映せる?」 望が訊くと上空からの映像に加えて、城の内部の映像が現れた。マラドーナはコントロールルームらしい部屋で、外の映像を見て何やら怒鳴っていた。
「誰がこんなことを許可したんだ?誰にしてもただじゃすまさん。死ぬ程後悔させてやる」そう言いながらも機械の操作をしている。隣室で小さな爆発音がした。マラドーナは隣室を覗き込んだ。
完全に灰になっている部屋を確認してからドアを閉めると、階下へ向かった。
「これは何の騒ぎだね?何の権利があって私有地に押しいった?」マラドーナは全くわけがわからない、という顔で連邦軍を指揮している男に問いかけた。
「マラドーナ議員、連邦法への重大な違反のため身柄を拘束します。こちらが、連邦判事の逮捕状です」
「重大な罪?何のことだ?証拠もないのにそんなことが許されるものか!」 マラドーナが怒鳴ったが男は構わずにマラドーナに手をかけた。暴れて男を殴ろうとしたマラドーナをかわして、腕をとると後ろに回して拘束し、側にいた男に連れていくように命じた。マラドーナはまだ怒鳴り続けていたが、他の会員達と一緒に車に積まれたようだ。
階下では続々と会員たちが逮捕されていた。殆どの会員はまだ具合が悪いらしく抵抗せずに外へ連れていかれた。わずかに抵抗しようとした護衛達も迅速に拘束されている。
「なんだこれだけか?もうちょっと抵抗するかと思ったぜ」 あっさりとした逮捕劇にリーがつまらなそうに言った。
「仕方ないでしょ。みんな毒にやられてたんだから」 ミチルも少しがっかりしたように言った。
「二人とも何言ってるの。問題なく済んで良かったじゃない。それより、マラドーナはあの部屋を燃やしたみたいだけど、大丈夫かな?」
「大事なものはハチがコピーして保存してますから問題ないでしょう。どのみち十分な証拠を先に大統領に送ってますしね。余罪の追及は彼らの仕事です」 プリンスがそう言った。望がハチにもういいと言おうとした時、連邦軍の指揮官が、何かを探すように辺りをぐるりと見廻した。何も見つけられなかったらしいが、フェイスマスクを少しずらして、誰にともなく言った。
「天宮君、見てるかい?後は任せて貰っていいから待機はもういいよ。気を付けて帰ってくれ」 そういってニヤリと笑うとまたマスクをつけた。
「大統領...」 望がぽかんとしてから呟いた。
「そう言えばあの人連邦軍から政治家になった変わり種でしたね」 プリンスが苦笑いしている。
「連邦軍から?それでミチルは彼のファンなのかあ」
「こりゃあやっぱり完全にバレとるな」 とドミニクが言った。