151. 望は甘い?
「ただ、マラドーナ自然保護区はサテライトからシールドされているため、中の様子がわからないらしい。もしかして、君達の情報源は中の地図を持っていたりするかな?」 大統領が意味ありげに望を見て訊いた。
「持ってます」と返事をしかけた望を引いて後ろに下がらせ、プリンスが答えた。
「情報源を探さない、という約束をしていただければ、地図は貰えると思います。それに、マラドーナの所在地も特定できているようです」
「わかってるよ。私の権限で情報源は秘匿とする。大統領情報局にも手は出させない」
「有難うございます。それでは、大統領のプライベートラインに望を通して送るように頼みます」
「有難う。兎に角このリストの全員を捕まえないと面倒なことになりそうだから、幸運を祈ってくれ。君達はもうしばらく安全なところで待機していてくれ」大統領がそう言って通信を切ろうとした。
「大統領、こちらの得た情報によりますと、マラドーナを含めた会員の大多数が何かの植物性の毒に当たって自然保護区内の建物で寝込んでいるそうです。逮捕には良い機会かと思います」 プリンスの言葉に大統領が目を細めた。
「ほう、それは都合がいい。これが天罰、というものかな」 彼はそう言って今度こそ通信を切った。プリンスはハチに言ってすぐにマラドーナ自然保護区の精密な地図と城の図面、マラドーナと仲間のそれぞれの現在地を大統領に送らせた。
「プリンス、大統領は本当に約束を守ってくれるのかしら?」 ミチルが不安そうに訊いた。
「今回は大丈夫だと思いますよ。あれだけ大物揃いですし、殆どが大統領の政敵です。どこから情報が来たか、或いは我々が連邦のセキュリティを脅かすほどの技術を持っているのか、などの疑問はとりあえず棚上げにせざるを得ないでしょう」
「今回は? てことは、後で問題になるのか?」 リーが訊いた。
「そうですね。他の問題が片付いたら、遅かれ早かれ何らかの打診はあると思った方が良いでしょう」 プリンスの言葉にドミニクが大きく頷いた。
「間違いないな。大統領は”情報源”が君達自身だとわかっているはずだ。今はそれを見逃す方が利があるが、やがてそれを利用したくなるだろうな」 ドミニクの言葉に望が少し悲しそうな顔をした。
「そうかなあ? 僕、キング大統領はいい人だと思ったんだけど」
「望、私もキング大統領は立派な方だと思います。滅多なことでは望を利用しようとはしないでしょう。でももし、連邦の平和のために必要だと思ったら...」 プリンスが肩をすくめて言った。
「連邦の平和のため?それだったら...」望が言いかけたのをミチルが遮った。
「望は甘いから、駄目よ。連邦の平和だの、人の命だの言われても、自分に何ができるとか絶対に話さないでよ。例え疑われていても認めなければ良いんだから」 ミチルのきつい口調に思わず頷いた。
「そうだよな。望は甘ちゃんだから、一度認めたら後は事あるごとに使われるぜ。政治ってそんなもんだ」 リーまでそう言ってミチルに同意した。ちらっとプリンスを見たが、プリンスも頷いている。
「僕は別に甘くなんてないよ。それに大してできることもないから、何にも話す事なんてないし」 不満そうに言う望を皆が呆れたように見た。