149. カリの作戦
『カリがね、あそこの木に言って邪魔させる』
「どうやって邪魔させるの?」
『ちょうどいいのがあるから大丈夫』
「カリ、何がちょうどいいの?」 望には全くわからない。
『カリならもっと凄いのが作れるの。だけどあの子だとちょっとやっつけるぐらいのしかできない』
「カリはなんて言っているですか?」 プリンスが訊いた。望は困ってドミニクを見た。ドミニクも良くわからないと首を振った。
「え~っと、何か、あそこにある木に言ってちょっとやっつけるぐらいの何かを作らせる、って言っているんだけど」
「成程。毒、ですね。それはいい案かもしれません。さすがはカリですね」 プリンスがカリを褒めたので、カリが得意そうに葉をプルプルした。
「毒? そんな危ない木があそこにあったの?」
『危なくはないの。どんな木でも作れるの。作らない木もあるけど、皆作れる。カリ程凄いのは作れないけど』
「確かに昔から毒は植物から採取されていましたから、当然かもしれませんね」 プリンスにカリの言っていることを伝えるとプリンスが頷いた。
「もしカリが言うようにあの城の周囲に植物性の毒を撒くことができれば、我々の関与を知られずに狩猟を止めることができますね。うまくいったら会員を足止めすることもできるかもしれません」
「毒を撒いたら、死んだりしないの?」
『あそこの子達じゃそんなに凄いのは作れないの。カリならできるけど。せいぜい動けなくなったり、痛くなったりする位のしか出来ないと思うの。カリがやろうか?』
「いや、やらなくていいよ。と言うか、やらないでね、カリ。僕は誰にも死んで欲しくないからね」望が慌ててカリを止めた。
『わかった』ちょっと不満そうにカリが言った。プリンスにはカリの言っていることが想像できたらしく苦笑して言った。
「悪い人達だけど、罰を受けて貰いたいから生きていてもらわないとね、カリ。でもしばらく痛い思いをするくらいは、殺されそうな動物達の事を考えると、当然ですから、カリにお願いしますね」
『わかったの』
「でも、カリが行って教えて上げなくちゃいけないの?離れていてもできる?」 望はカリをあそこへ連れて入る事を考えると心配だった。
『近くまで行ければ大丈夫』
「近くってどのくらい?昨日位で大丈夫?」
『昨日よりもう少し近い方が良い』ちょっと考えてからカリが答えた。
「あれより近くだと、やっぱり中に入らないといけないね」 望がため息をついた。
「だったら空から行ったらどうだ?」 ドミニクがそう言ったので全員がドミニクを見た。
「あれだろ、天宮君のLCがセキュリティのコントロールを奪えるんなら、上空から入る穴を開けられるわけだし、上空からならかなり近づけるぞ」
「しかし、いくらあちらのシステムをごまかせても、上空に車がいたら人間の目につくわよ?」 ミチルが言った。
「何、わしがここに来るのに乗って来た奴にはステルス機能がついとるからあれなら少し離れておれば大丈夫じゃ」 ドミニクの言葉にリーが目を輝かせた。
「ステルス機?流石ドミニク!」 一気にドミニクの評価がリーの中で上がった瞬間だった。
結局、他にもっと良い案もないのでカリとドミニクの案を採用することにした望達は狩猟の始まる前に準備しようと急いでドミニクのステルス機までトラックで移動し、そのまま飛び立った。小型で5人も乗ると少し窮屈だったが、勿論誰も文句は言わなかった。
ハチが指示した地点からマラドーナ自然保護区に侵入し、お城の上空で停めた。カリがここからなら大丈夫、と請け合ったのだ。それから30分程、望にエネルギーを貰いながらカリが城の周囲の木々に”お願い”をした。カリによるとほとんどの木が協力してくれるらしい。
しばらくして、城の中からライフルや、レザーガンを担いだ人達が出て来た。 見つからないかと心配だったが、誰も上空を見ない。見ても見えないはずだが、望は誰も上を見上げない事にほっとした。
全員で20名程が城の前に集まった。そこへ、屋根のないジープのような車が何台も現れ、何人かづつのグループにわかれて乗車し、出発した。
「誰も何ともないようだけど、カリ、大丈夫なの?」 どのくらいの毒なのか知らないが、まだ誰も苦しそうにはしていないようだ。
『大丈夫。みんないっぱい出したって言ってるから』カリは自信たっぷりだ。カリは割といつも自信たっぷりなので、その分望が心配してしまう。
上空から少し離れて車の後をついていくと、一行は保護区の中央地帯に着いた。この辺りは幾つか水飲み場が作られ、あちらこちらに動物が見える。それを眺めているライオンの家族がいる。どうやら今日の獲物はライオンらしく、一人がライオンの方を指さしならが何かを指示している。いよいよ狩が始まりそうで気が気でない望は、もし本当にライオンが撃たれそうになったらどうしたらいいか、と考え始めた。 その時、指示を出していた男が急に体を捩じって、蹲った。 どうしたのかと、尋ねようとしたらしい男も、次の瞬間にライフルを放り出して、頭を掻きむしりだした。同様に数人が蹲ったり、道端で嘔吐したりし始めた。比較的無事な一人がどこかへ通信し、城の方角から車がやって来るのを見て、目的を達成したことを確信した望達は引き上げることにした。