143.マラドーナ自然保護区への潜入3
プリンスとドミニクが潜入経路の相談をしていると、ハチが現れた。
「望様、先ほど望様が描かれた地図を参照してサテライトからの映像と照合した結果、この保護区にかけられているブラインドの殆どを無効化する事に成功しました。映像をご覧になりますか?」 ちょっと得意そうな顔でそう言った。
「うん、お願い」
ハチが映した映像は望が描いたものと殆ど変わらなかったが、望の地図にはなかった道が幾つかあり、ライオン、キリンなどの野生動物も写っていた。望の地図に会ったお城はハチの画像でみると更に大きく立派で、本物の城にしか見えない。
「やっぱりお城だね、これ?」望が誰にともなく言った。
「城だな」 リーが感心している。
「現在の電気の流れをご覧ください」
ハチがそういうと地図の上に電流を表すらしい黄色の波打つ線が現れた。
「これって空の上にも電流を流しているってこと?」 保護地区全体を半円状に囲んだ黄色い波線を見て望が訊いた。
「そうだな。地上程密ではないが、大きな鳥は通れないぐらいの網目だな。どうしてあれほど鳥が落ちているのかと思っとったが、これでわかった」ドミニクがそう言って、顔を顰めた。
「2メートル位なら上から行けば簡単だと思ったが、これは困ったな」
「そうですね。やはり一部分を壊して入るしかないでしょうが、侵入がバレると対策を取られるでしょうから、バレずに柵を壊す必要があります。しかし、柵に手をかけたら絶対にわかるようになっているはずです」 ドミニクとプリンスが地図を見ながら話し合っている。
「え~っと、どうして柵を壊して入らなくてはいけないの? ほら、ここに門があるよ」 望がそう言って、2か所を指さした。 一つは望達が現在いる位置からそう遠くないところにあり、小さな門があった。もう一つはお城に近いところで、こちらからは反対側にある。門から道路までは幅広な道があった。
「望、私達は誰にも見つからずに入らなくちゃいけないから考えてるんじゃないの。門のところにはいつでも兵隊が見張りをしているでしょ。だから門は使えないのよ」 ミチルがことさら親切そうな口調で、聞き分けのない小さい子供に言い聞かせるように言った。
「そんなことわかってるよ」 望はミチルの口調にムッとして言い返した。
「僕はただ、門なら使うために開くだろうから、その時に入ればいいんじゃないかんと思ったんだよ」
「門が開いたって兵隊が見張ってたら黙って通してくれるわけないじゃないの!」 ミチルが親切ぶった口調をやめて、馬鹿にしたように言った。
「門ならいつかは開くから...成程。確かにそうですね。望、さすがです。それで行きましょう!」 プリンスがそう言ったので、ミチルが信じられない、というようにプリンスを見た。
「ほう、何かいい案が浮かんだかね?」 ドミニクが期待するようにプリンスを見た。
「望、このスーツは望の好きなように見かけを変えられるのですよね?」ドミニクの問いには答えず、プリンスは望を見て訊いた。
「うん、僕が見たことがあれば大丈夫だよ。何か違う服にする?メインテナンスとか?」
「いいえ、それではすぐに調べられてみつかるでしょう。僕達を透明にすることはどうですか?」
「透明?ということは向こう側の景色を映すんだよね?前に似たような実験をさせられたことがあったなあ」 望は目を瞑って思い出してみた。
「うん、多分出来ると思う。でもこれ結構難しいから、僕とあと一人位の分しかできないと思うんだけど」 望がそう言って、ちょっと困ったようにミチルとプリンスを見た。
「私は望の護衛だから、一緒に行くわよ」 ミチルはプリンスが何か言う前にきっぱりと言った。その、どんな議論も受け付けない、という態度にプリンスも負けを認めた。
「確かに、ミチルの方が私よりずっと強いですから仕方がありませんね」 そう言いながらもためらうように望を見た。
「望、もし見つかったら兎に角逃げ帰ってくださいね。ばれても捕まらなければ後はなんとかしますから」
「大丈夫だよ。お城の中に入りさえすればすぐにハチが色々調べられるから、すぐ出てこれるよ。そうだよね、ハチ?」
「はい。お任せください」 ハチが自信ありげに言った。
潜入メンバーは望、ミチル、ハチとなった。カリは行きたがったが、望のような服を着てないから無理だよ、というと自分で透明になれないかがんばっていたようだ。朝になって諦めたらしく、大人しくお留守番をすると言ってきた。
次の日、見えるようになったサテライトからの映像でガードの交代時間や、門を開ける頻度を確認した。ほとんど使われていな裏門よりも、正門の方が出入りが多いことがわかり、正門から侵入することにした。その夜、正門側にトラックを移して近くの岩と同じように擬態し、プリンス、リー、ドミニク、それにカリはハチが送って来る映像を見て、もし望達に何かあったらすぐに動けるよう待機。望とミチルは入り口の側に隠れて門が開くのを待つことになった。