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17.リーの秘密


「やっと来たようです」


 プリンスが腕のLCを見て言った。

 空を見上げると白いヘリが2機近づいて来る。護衛がヘリの外に乗り出して銃を構えていた。


「敵は捕まえたから僕の位置の前に直接下りてください。怪我人がいるので大至急医師の手配を」


 プリンスがLCで護衛隊に指示を出すのを聞いて、横になっていたリーが慌てて起き上がろうとした。


「おいプリンス、医者は必要ないよ。手を離して。プリンスの手が痛くて死にそうだ。ほうっておけば血は止まる」


「何言ってるの。失血死したらどうするの」


「リー起き上がっちゃだめだよ。ひどい傷なんだから」


 望がリーを押さえた。


「本当に大丈夫なんだ。手を離して見てごらん」

リーはそう言うとサーモブランケットをどけて傷口を見せた。


 プリンスは半信半疑で、傷を見た。出血が止まっていた。それだけではない。さっきは見えていた白い背骨が見えない。


 見ている間にも肉が盛り上がってくる。


「・・・・すごい回復力!さすがリーだね」望が嬉しそうに叫んだ。


「さすがリーってね、望、そういう問題?」


 ミチルが脱力したように座り込んだ。


「俺はGE(遺伝子操作を受けた人間)なんだ。兄貴は普通に生まれたんだけど、適正テストが悪くてとてもおやじのあとは継げないとでた。おやじががっかりして、俺の時には内緒で遺伝子操作をさせたんだ。だから俺は最初から体がでかくて、知能も高かった。でも、予定外なことに、異常な回復力まであって、怪我をしてもすぐに治っちまうんだ。その上、兄貴と違って親に懐こうとしない子だったらしく、母親は俺の事を気味悪がって抱き上げようともしなかった。親父も、遺伝子操作のせいで俺が感情のないロボットになったように思ったらしい。兄貴が育つにつれて優秀な資質を見せてきたこともあって、俺には、兄貴の役に立つ人間になれ、としか言わない」


 リーが俯いて早口で言った。


「黙っていてすまなかった」


「別に謝ることじゃないだろう」

 プリンスがもう一度リーの背中を眺めながら感心したように言った。


「そうだよ、リー。遺伝子操作は失敗が多かったから禁止されたんだろ?リーの場合は成功したんだから良いじゃないか。怪我が治るなんですごいよ。良かった」

 望が心からうれしそうに言った。


「成功したかどうかわからないだろ。まだこれから何かの異常がでるかもしれない。それに、俺の事ずるい奴だと思わないのか。今まで俺の成績が良かったのも、スポーツが出来たのも、禁止されてる遺伝子操作のおかげなんだぞ」


「何言ってるのよ。それこそ本当にあなたの能力が遺伝子操作のせいかどうかなんてわからないでしょ? あれはギャンブルみたいなものだっていうんだから、実はその丈夫な体以外何の効果もなかったのかもね。実際効果があったにしてはお粗末だし。私に格闘技で勝てた事ないでしょ」とミチル。


「お粗末とは何だ、お粗末とは!」リーは叫びかけてから望を見てぽかんとした。


「望、お前どうしたんだ?猫耳がはえてるぞ」


 望は慌ててヘッドギアを外した。



「プリンス、ご無事ですか?」


 着陸したヘリから飛び出してきた6人の護衛は皆手に武器を持ち、用心深く周囲を見ながらプリンスを取り囲んだ。


 プリンスの手と白いスーツについた真っ赤な血を見て顔色が変わった。


「プリンス、お怪我をされたのですか?」


「私は大丈夫だ。これはリーの血です。リーを運んで下さい」


 自分を担ぎ上げそうな護衛に、プリンスが落ち着いて命令した。


「自分で歩けるよ。はやく暖房の効いたところに行こうぜ」


 ふらりと立ち上がったリーの肩を両側から望とミチルが支えて歩き出した。乗ってきたヘリのある辺りにくると、薄いホロスクリーンを通してドアが開いているのが見えた。


 身振りで立ち止まるように合図してから、プリンスの護衛達が機内に入った。


「男が2人倒れています。ドアの前の一人は、背中を打たれて既に死んでいます。奥の一人は気を失っているだけで、命に別状はなさそうです」


畿内を確認した護衛が報告する。プリンスを先頭に機内に入ると、ドアの前には動かないカイルの体があった。カイルが既に死んでいるのは明らかだった。奥には倒れているエリオットの姿が見えた。


「カイル! エリオットは?」


プリンスが歩み寄ろうとした望を止めた。黙ってカイルの死体とエリオットを見ていたミチルが、望を自分の後ろに引いた。


「こういうことは専門家に任せたほうがいいよ」優しく望に言って、護衛に合図をすると、彼らはエリオットの状態を確認し始めた。エリオットは気が付いたようで、うめきながら目を開けた。


「良かった」

 望はほっとして力が抜け、プリンスに寄りかかった。


「気がついた?」ミチルが襲撃者達から奪ったレザーガンを手馴れた様子でエリオットに向けた。一体いつガンの使い方なんか練習したのだろう。いや、みちるのことだから驚かないが、やけに手馴れている。


「いったいどうしたんだ、君たちは」エリオットが訳が分からないといった顔で叫んだ。


「この状況からみて、あなたがカイルを殺したとしか思えないわ。」


「カイルにいきなり後ろから殴られたんだ。私が気を失ったと思ったのだろう。外に出ようとしていたから、あなた達が危ないと思って、咄嗟に撃ってしまったんだ。そのまま気を失ってしまった」


「カイルが?そんなこと信じられないよ」と望が言った。


「無駄な嘘はおよしなさい」プリンスが氷のような表情でエリオットを見た。


「あなたが私達を殺そうとしたことはわかっている。私が知りたいのは、その理由だ。それにもし他に仲間がいるなら捕まえなくてはならないからね」


「何を言っているんだ。これは正当防衛だ」



「馬鹿な事を。あなたはエリート軍人だ。カイルは体は大きいが何の訓練もされていないただのガイドだ。体を見ればわかる。あなたがカイルに不意をつかれることなどありえない」とプリンス。


「もしカイルが本当にあんたの不意をついたとしたら、カイルはあんたを殺してるはずだ。俺ならそうする。気を失っているあんたを殺しも、縛り上げもしないで背を向けることなど考えられないだろ」リーが馬鹿にしたように言った。


「第一、その頭の傷は銃で後ろから殴られ手できたものじゃないわ。角度が低すぎるわな。それは、こう自分の右手で後ろを殴ったものよ」


 ミチルが自分の右手で後頭部を殴って見せた。


 アランは3人のそれぞれの理由を聞いてあきらめたように俯いた。


「へーえ。みんなすごいね。一瞬で見破るなんて」


 望はすっかり感心してしまった。


「望だってすぐに信じられないって言ったじゃないか・望はどうしてわかったの?」


「僕?全然わからなかったよ。ただ、カイルがそんなことするなんて信じられないと思っただけ」


 ミチルがあきれたように上を向いてため息をついた。


 「プリンス、どういたしますか?」


 プリンスの護衛が声をかけた。


「ああ、外の4人と一緒にして、事情を聞いてくれないかな。どうも僕たちには話したくないようだから。その間にミスターウォルターに連絡してどうしたらよいか相談してみるよ」


 プリンスの連絡を受けたマックは信頼していたエリオットの裏切りに、一瞬ショックを受けた様子だったが、すぐに落ち着いた表情で、すぐに迎えのヘリを送ること、南極警察へはマックが連絡するので望達はそれで帰ってくるようにと告げた。


 迎えのヘリは本当にすぐにやってきたが、カイルの死体と待つ時間は望には永遠のように感じられた。プリンスとミチルは捕まえた連中への尋問に参加しに行ったのでヘリの中には、超回復の疲れでさすがにうとうとするリーと、リーについているために残った望だけだった。


 マックに言われて、あとを迎えの人達に任せて、(死人がでているのにそれでいいのか、と連邦の住人である望達は思ったのだが)南極警察を待つことなくマックの牧場へ戻った。着いたのは、ほとんど夜中だった。


「アレクセイ、無事か?」着陸するなり長身で上品な紳士が駆け寄ってきた。


「お爺様、どうしてここに?」


「アレクが襲われたと聞いてすぐに飛んできた。ナディアも来ると言ったのだがあまり大勢で行ってアレクが嫌がるといけないと思っておいてきた」


「それは、お心使い、有難うございます」


「とにかく家に入りなさい。ミハイル先生を連れてきたから」


「ミハイル先生?僕はどこも怪我などしていません」


 プリンスは祖父に腕をとられて家に入った。


 望たちはあきらめたように顔を見合わせて後に続いた。ミハイルはプリンスの家のお抱え医師で、望たちも去年、エベレストの山頂で会っていた。


「特に異常はありません。しかし、筋肉の疲労が見られますので回復しておきましょう」


 望に続いて家に入る前に、ミチルがリーを振り向いた。


「誰かにしゃべったら命はないと思いなさいよ」


「わかってるよ。俺には効き目のないマントラなんか覚えていてもしょうがないからな」


 リーが肩をすくめた。


『望を守るために力をください』


 ミチルのマジックワードだった。

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