142. マラドーナ自然保護区への潜入 2
ドミニクが選んだ辺りには比較的大きな岩が幾つかあり、その間には灌木が生い茂っていた。岩の陰に隠れるようにトラックを止めた後、望がトラックを岩に見えるように擬態した。
「これは望君がいなくても消えないのかね?」 ドミニクが感心して岩を見ながら訊いた。
「車の擬態と同じだから最初にセットだけすれば大丈夫です」
「これはいい。わしにも一つ売って貰えんかな?いろいろと面白い使い道が考えられる」ドミニクが羨ましそうにして訊いた。面白い使い道ってなんだろう?
「残念ながら今のところこれをまともに使えるのが望だけなので、商品化はまだ先にになるそうです」プリンスが答えた。
「使えるのが望君だけとは?」 ドミニクは納得できないようだ。
「車の外装を変えたりする擬態装置なら既に商品化されているので購入できます。その場合は、決められたスタイルから選ぶのですが、この装置は自分で好きなイメージを描いてそれに擬態するようになっているので現実に見えるようなイメージを描くことが必要です。これが難しくて、私も試させてもらいましたが、とても使い物になりませんでした。それで今は一つの装置になるべく多くのパターンが組み込めるようにしたものを開発中です。フューチャープランニングの研究所も望のような天才がオーナーになったおかげでこの部門が飛躍すると大変喜んでいました」 プリンスがいつになく饒舌だ。
「天才って、言いすぎだよ。僕これしかできないからー一芸に秀でてる?だけだよ」 望が恥ずかしそうに付け加えた。望の言葉に何故か大きくミチルが頷いている。
「成程。確かにイメージというのは目の前にあるものでも意外と難しいかしらんな。よし、是非その普通の人間でも使える奴を買おう。望君に頼めばいいのか?」
「え~っと、どうだろう?」 自信なさげにプリンスを見ると、プリンスが頷いた。
「大丈夫みたいだから、帰ったら注文しておきますね」 望はそう言ってドミニクに約束した。
「まず無事に帰ってからよね」 ミチルが大事の前に玩具に気を惹かれるドミニクに白い眼を向けて言った。
「勿論じゃ。楽しみの前に仕事だな」
「カリ、誰か話せる子いる?僕はなんだかざわざわとしか聞こえないや」
望によって外の景色の一部にしか見えないように擬態した5人はマラドーナ自然保護区の外側ギリギリに陣取っていた。驚いたことに昔の小さな国位の面積がある地域はすべて電気柵で囲まれていた。かなり高圧の電流が流れているらしく、あちらこちらに小さな動物や鳥の焼け焦げた死体が転がっている。触れたら即死か、大怪我しそうだ。しかも高さが2メートル以上あるので簡単には越えられない。望とカリは中にいる木とコンタクトするために柵のすぐそばにいた。
『大丈夫。ちょっとお馬鹿っぽいけど、ゴーストよりは話が通じる』 カリは何故かゴーストに敵対心を抱いている。話ができないせいなのか、それともゴーストがカリを齧ろうとするせいなのか。
「それじゃあ、その子に辺りを見せてもらうことはできる?」
『大丈夫』 望がカリの幹にそっと手を添えて集中するとぼんやりと、どうやら保護区の中らしい景色が見えて来た。だんだんはっきりしてきたが、辺りは草原で人間の姿も、建物もなかった。遠くにキリンが見える。
「えっと、これはどの辺かな?どこか人間の作った建物があるところを知らないかな?」
『お母さん、ちょっと待ってね。訊いてみる』カリがそう言うと、景色が消えた。それから何度か違う木と意識を繋いでもらい、5本目の木で、漸く建物が見えた。
「なにこれ? お城?」 望が驚いたのは、その建物が中世のお城にしか見えなかったからだ。
「お城があるのか?」 ドミニクが訊いた。
「うん。いつ頃のものなのかは僕にはわからないけれど、ほら、ドイツ地区に保存してあるようなお城だよ」
「マラドーナらしいな。王様にでもなったつもりなんだろう。そこが本拠で多分間違いない。大体どのあたりか特定できるか?」
「緒と時間はかかるとおもうけど、やってみる」 望はカリと協力して、お城のある場所から他の木の意識を繋ぎ、電気柵のある外周までの地図を頭の中に書き上げた。その途中で一か所軍人らしい人達が出入りしている普通の建物を見つけたので、それもマークしておいた。数時間かけて、広い自然保護区の全体図と、お城の位置、道路、出入口を見つけた。
「カリ、疲れたでしょ?ご苦労様」 ひとまずトラックの中に引き上げた後、カリに水とエネルギーをあげて休ませる事にした。
『大丈夫。カリはとても強いから』 得意そうに言いながらも一生懸命望からエネルギー貰っている。かなり疲れているようだ。
「本当だね。有難う。でも少し休んでね」 カリの葉を撫でていると、カリが眠ったのがわかった。
「これが大体の全体図で間違いないと思う」 カリが休んだ後、望が脳内に書き上げた地図をホロイメージにして大きく皆に見えるように展開した。
「ほう、これは凄いな。こんなことができるとは、望君は一流のスパイになれるな」 ドミニクがひどく感心して褒めてくれた、らしい。スパイって?
「望にそれは絶対無理ですわ、ドミニク」 ミチルが真顔で断言した。リーも大きく頷いている。
「ミチル、絶対無理ってどういう意味?」 別にスパイになりたいわけではないが、どうも何か馬鹿にされているような気がして、疑わしそうにミチルを見た。
「それにしても、この地図は素晴らしい。本当に凄いですね、望は」プリンスは何故か話題を逸らそうとしている。
「これで、どこから侵入すればいいか決められるな」 ドミニクがそう言ってプリンスと侵入経路の相談に入った。