131. 大統領に会う事になったらしい
「望様、ブレナン博士から通信が入っております。如何いたしますか?」 ハチがのんびりとソファーの背に凭れかかって、ジェットの窓の外を見ていた望に訊いた。アカと別れてからパースのフューチャープランニング本社に寄り、そこからネオ東京に戻る途中だった。
「博士から?繋いで」 望が慌てて起き上がると同時に目の前に白衣を着てちょっとくたびれた様子の博士の姿が現れた。
「ブレナン博士、大丈夫ですか?」なんだかいつもよりもっとくたびれた感じがする。
「ああ、まあ問題は山積みだが、キング大統領が退院して復帰されたから大体の事は片付いたよ。それでね、悪いんだが一度こちらに顔を出してもらえないかな?未成年だし、証拠は十分揃っているから通信での事情聴取で構わんだろうと言ったんだが、どうしても本人に直接会わなくちゃいかんという奴らがいて参ってるんだ。それと、大統領が直接会ってお礼を言いたいと言っているし。もっとも大統領は自分がネオ東京に行っても良いと言ってたけどね」 まくしたてる博士の言葉に何と答えたらいいのかと、思わず正面に座っているプリンスを見た。プリンスも困ったような顔をして考えている。
「博士、まさか大統領にわざわざ来ていただくわけにもいかないでしょうから、こちらから出向くことにしましょう。ただ、明日から学校もありますから週末でよろしいでしょうか?勿論私も一緒に参ります」 確かめるように望を見ながら、プリンスが返事をした。
「勿論構わんよ。では、あちらに連絡して詳しい日時を連絡させる。会えるのを楽しみにしてるよ」 そういうと博士の姿が消えた。
「大統領に会わなくちゃいけないのかなあ?」 望がため息をついた。
「キング大統領かあ、俺も一度会ってみたいな」 リーが羨ましそうに言った。
「リーは会ったことないの? 新年のパーティなんかでお父様と一緒に会っているかと思ってた」
「そういうのは俺じゃなくて兄貴の方を連れて行くんだよ。俺が行かされるのはもっと下の方の派閥のパーティとかばっかりさ」
「そうなんだ」 ちょっと驚いた。てっきり毎年パーティで会っていると思ってた。
「そういうものなんだよ。プリンスは会った事あるよな?」 リーが苦笑して、プリンスに訊いた。
「私も政治関係のパーティにはあまり出席しませんから、グリーンフーズのパーティに大統領が顔を出された時に何回かご挨拶させていただいたくらいです」
「どんな方なのかしら?高潔な方だと聞いているけど」 ミチルが興味深そうに訊いた。
「ご挨拶だけで、親しく話したことはありませんので、印象だけですが、清廉潔白というよりは、したたかで強い人だと思いました」プリンスの言葉にミチルがちょっと不満そうな顔をした。
「世間では曲がったことの嫌いな聖人君子と言われてるが、プリンスはそうは思わなかったのか?」 リーが面白そうに訊いた。
「聖人君子はどうかわかりませんが、いわゆるカリスマがある方です。言葉に力があるので、例え反対意見を持つ相手でも思わず同意してしまうのではないかと思うほどです」
「プリンスは大統領のこと、あまり好きじゃないの?」 望がプリンスの描写に首を傾げて訊いた。
「そんなことはありません。大変魅力的な方で、私も惹かれました。そうですね、もし私が望と出会っていなければ、もっと心服して、あのような人になりたい、と思ったかもしれないほどです」 プリンスが望を見て、そっと、望に出会えて本当に良かったです、と小声で言った。
「ふ~ん」 なんだかよくわからない、と望が首を傾げた。リーとミチルは何となくわかるような気がするな、と思い、ドミニクは凄くよくわかる、と首を振っていた。