127. 奴隷?
「手助け?わしがか?わしに何ができるというんだ?」
「貴方はカリと話せました。マザーの声が聞こえました。貴方は多分、木を成長させることができるはずです。カリのように知性のある木を増やすことができると思います」
「カリ君のような木を?」
『お母さん、カリは特別なの。カリみたいな木はないの』カリが拗ねたように口をはさんで来た。
「そうだよね。ごめんね、カリ。カリ程ではなくても、カリの子分程の木なら十分だよ」望がカリを撫でながら宥めていると、バーンスタインが泣き笑いのような表情でカリを見た。それから首を振った。
「わしには君が望むような世界に生きる資格がない。わしなんかが関わったら君達が誤解を受ける。それに、わしはもう耐えられんのだ。マザーと話してからまるで一生分の感情が一度に自分の中に生じたようだ。自分のしてきた事すべてがうとましくてならん。このまま生きる事に耐えられん。だが、自分を罰せずに死ぬこともできない」
望はしばらく言葉を尽くしてみたが、彼の決心は固かった。
「それでは仕方がありません」 望がそう言うと、やっと諦めてくれたか、とバーンスタインが肩の力を抜いた。ほっとしているようでも、寂しそうでもある。
「ハチ、マックのバーンスタインさん宛てのメッセージを再生して」
目の前にマックが現れた。驚いてみているバーンスタインの前でマックは、自分が望にすべてを譲る事、その”すべて”の中にはバーンスタインへの”貸し”も含まれている事を明言した。
「というわけで、貴方は僕に借りがあることになります」望はそう言ってにっこりした。
「ああ、そうだな。わしにどうしろと?」 バーンスタインは疑い深そうに望を見た。
「僕のお願いは、貴方がもうしばらくこの世にとどまって僕達の手伝いをしてくれることです。そうですね、あと10年、貴方の全ての時間を僕に下さい。それで借りは返されたということにしましょう。10年たってまだ地獄に行きたければ、僕がラストドリームを創ります」
「わしの時間を10年?随分と吹っ掛けたな」
「マックの貴方への貸しはそれ位の価値はありませんか?」
「それは、ある」 渋々と言った口調でバーンスタインは認めた。
「では、お願いできますね?」
「わかった。10年だな?わしは10年間、君の奴隷になろう」諦めたように苦笑いしてそう言ったバーンスタインに、今度は望が慌てた。
「奴隷って、なんですか。変なこと言わないでください!」
「なんでも君の言うとおりにするってことは、そういうことだろ?」 ふふん、というように言い返されて、望は答えられなかった。そうなのかな?思わずプリンスを見た。
「従業員と奴隷は違いますよ、望。従業員は仕事に関しては雇用主の指図に従わなくてはなりませんが、それを奴隷とは言いません。彼は貴方に罪の意識を持たせようとしているだけです。もっとも、私としてはむしろ奴隷としてしっかり首輪をつけておいた方が良いと思いますが」プリンスが冷たくバーンスタインを見た。
「わしは構わんよ」 肩をすくめてバーンスタインが言った。
「それでは、遠慮なくそうさせていただきます」 プリンスがそう言って、ハチにバーンスタインにモニタリング装置をつけるよう頼んだ。ハチから薄い針が伸びてバーンスタインの腕に触り、消えた。
「プリンス、そこまでする必要はないんじゃない?」 望が驚いて止めようとしたが一瞬の事で間に合わなかった。本当にハチはプリンスの命令に従いすぎだ。
「いや、構わん。気持ちはわかる。わしだって、わしを信用せん。それで安心するなら、却ってこちらからお願いしたいくらいじゃ」心配する望に頷いて見せた。本当に気にしていないようだ。
「さて、わしはまず何をすればいいのかね?」覚悟を決めたのか、そう言うと、期待するような瞳を望に向けた。




