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124. どうやら地獄を創ることになった

 しばらくカリの葉を撫でながらまるで魂を抜かれたように跪いていたバーンスタインを、望が立ち上がらせて、椅子に座らせた。バーンスタインは少し落ち着いた様子で、ぽつぽつと話し始めた。



「わしは、自分で自分の生を終わらせようとなど、一度も考えたことがなかった。自分の好きなように、生きられるだけ生きてやるつもりだった。子供の頃からなんでも簡単にできて、何をしても楽しいとは思えんかった。だが、学校に行って、生意気な奴らに大勢会って、そいつらを思い通りに動かすことを覚えて、生まれて初めて楽しいと思った。権力のある奴ほど、跪かせた時は興奮したもんだ。ありとあらゆる方法で、誰でも言うことを聞かせてきた。思い通りにならなかった人間はごく少数だった」 バーンスタインはちらりとプリンスの顔を見て苦笑した。



「10年ほど前にあるホロイメージを見た。そう、君の描いた七色の葉をつける木だ。その時、音楽が聞こえたような気がした。たった一度だけだったが、その音色が頭に残って離れなくなった。それからだ。人を操る事にも、権力をふるう事にも楽しみが見いだせなくなった。そうするとな、わしには何もないんだ。何も。その上、これまで思い出したこともない奴らの顔を思い出すようになった。ああ、わしが手を貸して引導を渡した奴らだ。どいつもこいつも情けない顔で、わしに追いすがって来る。あんな奴らは別に怖くはないが、わしの中で、もしかしたら自分のやってきたことは悪なのか、という疑問が生まれ、年々それが強くなった。これまでそんな事思った事さえなかったのにな。わしの中では、わしのやりたい事を邪魔する奴こそ悪だった。そんな時、昔世話になったウォルターの死を聞いた。あいつが君の作ったラストドリームで逝ったと聞いた時、これだ、と思った。もしわしが悪なのなら、ラストドリームで罰を受け、わしの一生の帳尻を合わせてやろうと思った」 彼は気が付いていないようだが、彼の目からは一筋の涙が流れていた。


「頼む。わしはもう生に未練はない。だがわしがただ死んだのでは、悪が罰せられなかったことになる。免罪のせいで、誰もわしを法的に罰することはできん。たとえわしのなかだけでも、悪を罰してから逝きたい」 バーンスタインはそう言って、望に頭を下げた。これまでの傲慢な態度ではなく、必死で頼んでいるのが見ている全員にわかった。


「僕の作成するラストドリームは、環境設定と、希望する方向に向かうようなイベントの発生はプログラムされていますが、それ以外は自由度が高くなっています。一旦ドリームワールドに入ると、あとはドリーマーの脳とAIで展開していきます。もし僕が地獄を設定したとしても、それがあなたにとって最適なものでなければ、多分、あなたにとっての地獄に書き換えられて現れるでしょう。それがどのようなものかはわかりませんが、貴方が最も苦しむ方法になるでしょう。その反面、例えばあなたがもう苦しみたくない、或いはもう十分に苦しんだ、と思ったならば貴方の意思でそれを変えていくこともできるはずです」 望は計画と大幅に外れて行ったマックのラストドリームを思い出しながら説明した。バーンスタインは自分でラストドリームを変えていける、という事に不満そうな顔をした。プリンスとミチルは初めて望のラストドリームの秘密を聞いて驚いていた。


「いつもは、自分の潜在意識でラストドリームを変えられる、と言う説明はしません。その方が自然にドリームワールドを楽しめるから。でも、僕は、人に苦しみを与えるためのラストドリームは作りたくありませんので、あなたの潜在意識にはその事をしっかり覚えておいていただきたいのです」 


「じゃあ、わしの頼みを聞いてくれるのか!」 嬉しそうに顔をあげたバーンスタインは子供のような素直な顔つきだった。

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