122. 地獄ってどんなところ?
「性格異常者?それって大丈夫なの?」マックからのメッセージを見終わったミチルが思い切り顔を顰めた。
翌朝、望は考えた末、マックのメッセージをプリンスとミチルに見て貰っていた。
「ひいおじい様とそんな因縁があったとは、驚きました。もっとも、一番驚いたのは世界大戦回避の裏事情ですが」 プリンスはメッセージを見終わった後疲れたようにソファーに凭れた。
「僕はマックのメッセージを見て、もしかしたらバーンスタインさんはなにかのきっかけで生まれつきの異常が治ったのかも知れない、って思ったんだ。もし、マックの言うように生まれつき倫理観のない冷酷な人間だったら過去の悪行を償うために地獄に行きたい、なんて思わないでしょ?」望は自分の考えを話したが、二人は同意できないようだ。
「マックも言ってたじゃない。約束した事以外何も信じるなって。ということは、あのコンサルでバーンスタインが言ったことはすべて嘘かもしれないってことよね?もしかしたら、望に地獄を創らせて、その地獄を制覇して魔王になるつもりかもよ」ミチルがまんざら冗談でもないような口調で言った。
「私も昨日からバーンスタインに関する記録をグリーンフーズの記録から調べて免罪にされた犯罪のリストを見ましたが、あくまで効率重視の人間らしい感情のないやり方が特徴でした。他の組織との抗争ではたった一人のターゲット抹殺のために小さな町ごと消滅させたことさえあります」プリンスの声には嫌悪感が滲んでいた。
「そんなことをする人がいるの?」 想像して、青ざめる望を見て、プリンスが表情を和らげた。
「すでに1世紀以上前の話ですし、詳しいことはわかりませんが、犯罪者なのは間違いないでしょう。約束したのだから会わない訳にもいかないでしょうが、幸いマックの”貸し”があるので、それを使って、あと腐れなく断ることを考えた方が良いと思います」
「確かに、マックの言うことが本当なら、貸しがあることがわかったのは良かったわね」
「そうだね」 望は最初から断るつもりで会うわけではないが、いざとなったら断れる貸しがあるのは有難い、と思った。
「君がノゾム アマミヤか。ドミニク バーンスタインだ。宜しく頼むよ」約束の時間丁度に現れたバーンスタインを望の部屋に案内し、プリンスとミチルを紹介した。バーンスタインはプリンスの名前に少し顔を顰めたが、すぐに愛想よく言った。
バーンスタインはまだ壮年に見えた。シルバーグレーの髪を少し長めに伸ばした中肉中背の男で、マフィアの親分というよりは抜け目のない政治家か、成功している経営者のように見えた。確かにそのどちらでもあるのだろう、と望は思った。以前のコンサルで見せた傲慢さは影を潜め、知的な顔を親しみやすい笑顔にしていた。あのコンサルのイメージを見ていなければ好感を持ちそうだ。
「まだバーンスタインさんのラストドリームをお引き受けすると決めたわけではないことは、祖父からお伝えしてますよね?」機嫌の良さそうな顔を見て心配になった望が念を押すが、バーンスタインはそんなことはなんでもないように頷いた。
「ああ、聞いてるよ。でも、会ってくれたということは引き受けても良いと考えてくれたわけだろう?」
「もう少しお話を伺って、僕にできるかどうか考えてみないとなんとも申し上げられません」 望が慌てて言うと、バーンスタインは腕を広げて、何でも訊いてくれ、と言った。
「まず、バーンスタインさんの考える地獄、とはどのようなところなのでしょうか?」 望の問いに、バーンスタインは一瞬呆けたような顔をした。