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108. 博士を家にご招待

「君の木?」 博士が興味深そうに訊いた。

 望が答えようとすると、プリンスが止めた。


「その件は今回の検査とは関係ありませんし、天宮君とグリーンフーズで共同開発を行っている事業の機密に関わることですから、少なくともこのような場所でお話することではありません」 広いフロアを見渡し、興味深そうにちらりちらりとこちらを見ている白いユニフォーム達に目をやって、プリンスが言った。


「そうかい?じゃあDNA分析の結果が出るまでもう少し落ち着けるところで話そうか。とりあえず血を貰うね」 博士は、望のそばまで来るとひどく手際よく望の手首に注射器を当てると望が驚いているうちにさっさと血を抜いて、それを側の機械にかけた。あまりの早業に心の準備をする暇もなかった。


「これでいい。それじゃついてきて」 そう言うと、望達を広い部屋の隅にあるガラス張りのコーナーに連れて行くと、ソファーに腰掛けるように勧めた。


「プライベートモード」博士は、3人が腰掛けるのを待って自分も対面の椅子に座ると、そう言った。ガラスに見えたパネルはアイボリーのしっかりした壁になり、室外は見えなくなった。


「これで、大丈夫かな?勿論防音、盗聴防止もしてあるよ」 博士の言葉に渋々プリンスが頷いた。


「それでは改めて、天宮くん。君の木とテレパシーで話せるということで、良いのかな?」


「話せる、と言っていいのかどうかはわかりません。実際は言葉で話しているわけではなくて、思っていることがわかるのを、僕が頭の中で言葉にしているのだと思います」 カリと”話す”時のことを考えながら望が答えた。


「それは子供の頃からかい?」


「いいえ、違います。なんとなく喜んでいる、とかは感じたことがありましたけれど、はっきり意思の疎通ができるようになったのは去年の夏頃からです。それに、僕がはっきり意思の疎通ができるのは僕の木とだけです。僕が、というよりあの木が特別なのだと思います」 実際はカリだけではなく、すべてのマナフルーツの木、それ以外のいくつかの木とも話せるが、その件だけは隠しておくように、とプリンスに念を押されている。危険な能力だと認定される恐れがあると言われた。


「君の木?」 博士が興味深そうに訊いた。


「はい。ユーカリの一種でカリと言う木なのですが、西オーストラリアに行った時に苗を見つけて持って帰ってきました。その木が、僕の木で、僕と話せるんです」


「その木は君以外の人とも話せるのかい?」博士が体を乗り出している。


「いいえ、できないようです」 カリが試したことがあるかどうかは知らないが、プリンスやミチルとも話したことはない。


「ふ~ん。その木が特別だとしても、君としか話せないのだとしたら、君も特別な何かを持っている、ということだね。ところでその木は今どこに?」


「家にいます」 ちょっと警戒するように望が答えた。カリが特別だ、と言ってカリに何かあったらどうしようと改めて不安になった。ミチルにあとで、今更遅いと頭を叩かれそうだ。


「家というと、ネオ東京だよね? 10000キロ以上離れているんだがね」博士は感心したように言った。

「テレパシーに距離は関係ないのかな?今度是非君の木を見たいなあ。僕が君の家まで行ったら、会わせてくれる?」 


「カリ、僕の木の名前ですが、カリが良いと言ったら構いません。でも、お預けすることはできませんよ」 ちらっとプリンスを見ながら望が答えた。


「ちょっと、今訊いてみてよ。ここから話ができるんでしょ?」 


「それはできますが、僕は彼の家の居候なので、勝手に人を招くのはちょっと」 望は困ってプリンスを見た。


「もし会わせてくれるならここの検査をさっと終わらせるよ?」 にっこり笑ってプリンスを見ながら博士が言った。


「お断りしたら?」 プリンスが渋い顔で訊いた。


「勿論断られても検査は公正に行うけれど、僕に特に行かなきゃいけないところもないなら、あまり急がなくても良いからね。ゆっくり時間をかけるかもしれないな」


「では、素早い検査の終了を約束していただく、と言うことで家にご招待いたします」 プリンスは諦めたように言って、望を見た。


「望、カリに訊いてみて下さい」


「わかった」


『カリ、ちょっといいかな?』


『なあに、お母さん』


『僕は今研究所に検査に来ているのだけど、その検査をする人が、カリに会いたい、っていうんだ。カリに会いに家まで来るというんだけど、カリはその人と会ってくれる?』


『悪い人?カリにやっつけて欲しい?』カリが妙に威勢が良く訊いてきた。


『悪い人じゃないと思うけど。ただ僕やカリの事を知りたいだけだと思う』


『いいよ。カリが悪い人か調べてあげる。悪い人ならやっつけてあげるの』


『やっつける前に、僕に教えてね?』望が心配になって念を押すと、不満そうな感情が流れて来た。


『それじゃあ、家に来てもらうから、頼んだね』


『わかったの。お母さん、早く帰ってきて』


『うん。すぐ帰るからね』


「悪い人でなければ、お会いするそうです」 博士を見てそう言うと、苦笑された。


その時博士のLCがDNA分析の終了を告げた。







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