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13.チャールズの狙い

その夜夕食後、望はリーからチャールズとの出来事を聞かされた。


「チャールズは大丈夫なの?」


「心配することはありませんよ。蛭は昔は治療のために医者が使っていたくらいです」 


「本当?」プリンスの博学にはいつも驚いてしまう。


「プリンス、どうやって蛭なんか手に入れたの?」


「今朝あった子供たちに、一度も見た事がない、と言っただけで、すぐに見つけてきてくれたよ」


「もうそんな込み入った話ができるのか?先住民の言葉は難しくて、俺でもちょっとした話しかできなかったのに」


 リーが悔しそうに言った。


「そんな事できるわけないじゃないか。あの子達皆英語がしゃべれるよ。僕らと同じ程度にね」


 プリンスが済まして言った。


「なんだって?あれだけ俺が苦労して会話をしようとしたのに、英語が話せるならなんでそう言ってくれなかったんだ!」


「きっと君の幻想を壊したくなかったのでしょう」




「データ解読終了しました。ディスプレイしますか?」


 チャールズのLCからダウンロードしたデータのセキュリティを解いたプリンスのLCが告げた。


「拡大してディスプレイ」


 データファイルが大きくディスプレイされた。かなりの量だ。


「すべてのデータで、天宮、望、ミチル、ヤナギ、リー、ライ、それに私の名前のなかのいずれかの部分が含まれたものを列挙」


「完了しました」


「随分あるな」


「でも、5月20日以前はプリンスの名前が一番多くて、望は殆ど出てこないわ。望の名前が出始めたのは21日からね」


「5月21日のチャット再生」




「チャールズ、お前にチャンスがめぐって来たぞ。お前の同級生のノゾム アマミヤが


あのマクニール ウォルターが住んでいると推定されている家を訪れた。もしお前がノゾム アマミヤから彼がウォルターに会ったのか、もし会ったのならその目的を探り出せればここでのお前の将来は約束される」


「マクニール ウォルター?まだ生きているんですか?」


「我々の情報ではまだ生きていて、アンダーを裏から牛耳っているのは間違いない。ウォルターに関する情報は殆どない。どんな小さな情報でも特Aクラスになる。お前にとっては非常に大きなチャンスだ。お前の母親は、何を思ったか野心のない文化省の役人などと結婚した。コネクションの無い者が出世するのがどれほど困難かはわかっているな。お前がここで上に行くには、これは又とないチャンスだ。逃がすんじゃないぞ」


「わかってます。ただ、アマミヤはクラスも違うし、付き合ってもメリットがないからあまり良く知らないんです。いつもプリンスにくっついているから目立つだけの奴ですよ。なんでウォルターが彼に会うんですか?」


「それを調べるのがお前の仕事だ。いいな、どんな手段を使ってもいい。必ず探り出せ。私がお前をその学校に通わせるために使った費用とコネクションを無駄にするんじゃないぞ」


「わかっています、おじい様」




「それでミチルか」


 短い沈黙のあと、リーが低い声で言った。


「甘く見られたものね」


 ミチルが落ち着いた声で言ってから、望に足払いをかけて床に倒した。


「僕にあたらないでよ」


 望が文句を言いながら起き上がったが、声に力がない。自分のせいでミチルを傷つけたのではないかと思ったのだ。


「チャールズから望のこと何か聞かれた?」プリンスが望を助け起こしながらミチルに尋ねた。


「特に望が話題になった事はないと思うけれど、クラブに興味があると言って活動の内容については結構聞かれたわね。入部したいとも言われたけれど、入部テストがあるのは私たちが未開地に行く時でないとできないと言っておいたわ」


 プリンスとリーのいるせいで彼らとのコネクションを狙う生徒からの入部希望は非常に多かった。    


 それを断るために皆で考えたのがこの『入部テスト』だ。


 世界にわずかに残された秘境の地を訪れて失われた言語を研究するためには、アボリジニと共に暮らせなくてはならない、というものだ。


 話を聞いただけで殆どの生徒は諦めるが、中には本当について来た猛者も数人いた。


 しかし3日ともった者はいない。


 テストを受けた生徒からの恐怖体験談が広まってここ1年は入部希望者がいなくなってほっとしていたのだ。


「メガシティの外では一日も暮らせないようなチャールズがテストを受けることはまずないと思ってたの。今日ついて来たのには少し驚いたくらいよ。よっぽどマックの事を探り出したかったのね」


「チャールズもなんだか可哀想だね」


 望はチャールズの祖父の冷たい顔を思い出しながら言った。


「何を同情してるんだよ!お前の事を情報局に売ろうとしてるやつだぞ」


「だって、家族にあんな風に言われてしょうがなかったのかもしれないだろ」


「しょうがないわけないだろ。お前、あいつの両親を知らないのか?」


「ご両親?僕はお会いした事ないよ」


「チャールズのご両親はいつも学校の催し物に見えているのよ。優しそうな方たちで、チャールズをとても大切にしているのは見ていればわかるわ」 


「私もパーティで何度かお会いしたことがあります。父親は文化局の上級職員で、評判もいい。知性的で立派な方だし、母親も愛情深い、優しそうな女性です。チャールズが祖父の言うなりにスパイの真似事をしているなんて、ご両親は知らないと思います」


「ほらみろ。あいつは自己顕示欲が強くて欲が深いんだ。それでミチルをだまそうとして、どうなっても自業自得さ」 


「それってテストの答案からの性格分析?」


 ミチルが疑わしそうにリーを見た。


「とにかくこのことは一応マックの耳に入れておこう。情報局が調査しているとしたら素人のチャールズだけのはずがないからね。それにこれはどちらかというとマックの問題だ。望はいわば被害者だ。望の安全にはマックにも責任を持って貰おう」


 プリンスの言葉にリーとミチルが頷いた。




 プリンスがマックにチャールズとの経緯を話した。


「それは申し訳ない事になったね」


 マックは望を見て言った。


「私のような年寄りを連邦がまだそれほど気にかけてくれているとは思わなかったので迷惑をかけた。君が私に会った理由は聞かれたら本当の事を話して貰って構わないよ。邪魔が入るといけないから、できればプログラムの完成までは秘密にしておきたかったが、もうすぐわかることだ。なんならその友達の手柄にしてやってもいいよ」


 望たちは顔を見合わせた。


「チャールズは友人ではありませんし、僕らは彼のやり方には賛同できませんので彼の手柄のご心配は無用です」とプリンス。


「えっと、それなら僕の友人に手柄を立てさせてあげてもいいかな?」


 望は皆にサバスの訪問の事を話した。


 改めてマックの許可を得てサバスに連絡した望は、サバスの喜ぶ顔を見て少し気分が軽くなった。



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