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100. 救出しました

「盗まれた木が見つからないのですか?」 望が心配そうに尋ねた。


「いや、見つかったのは見つかった。すり替えの連絡を貰ってすぐに鉢に仕込んであったGPSを使って、GPSタグを外される前に場所は特定できた。ただ、その場所というのがピエロブ園芸センターで、カリの木の苗木も数本置いてある。店の方では自分のところの苗木だと言い張っておるので、すべて買い取るといったんだが、その苗木は予約販売したものだから売れないと言うのだ」


「とりあえず、その店に行きましょう」



 ピエロブ園芸センターはモスクワ郊外にある中サイズの園芸センターで、もう夜9時を過ぎているが、店はまだ開いていた。苗木売り場に行くと、グリーンフーズのガードマンらしき数人が苗木を挟んで、店の警備ロボットと向き合っている。苗木はすべてカリの木の苗木で、どれも全く同じように見えた。 


 「これはオルロフ様、わざわざお越しいただき、恐縮です」 顔色の悪い男がプリンスの祖父を見て、顔を引きつらせて言った。


 「失礼だが、貴方は?」


 「店長のドミトリ ピエロブと申します」


 「うちのガードマンが言ったと思うが、当社の研究所から苗木が盗まれた。苗木につけてあったGPSタグは現在外されとるが、その前にこの場所を特定しておる」 プリンスの祖父が店長を睨みながら言った。


 「そうおっしゃられても、この苗木は当店が予約を受けて仕入れたもので、決して盗品ではございません」 店長の顔色は益々悪くなっているが、苗木をかばうように前に立った。


 「別に御社が盗みに関わっている、と言っているわけではございません。多分、盗人が、隠し場所に困って置いていったのでしょう。対価をお支払いしますので、この売場のカリの苗木をすべて売っていただきたい。そうすれば、事を荒立てることもないでしょう」 プリンスが穏やかに提案した。


「できればそうしたいのですが、申し上げましたようにこの苗木はすべて予約販売済みで、申し訳ございませんが、お売りできません」 年若いプリンスが相手だからか、店長は少し勢いが良くなって来たらしく、自信たっぷりに言った。


「予約した顧客の名前を教えていただけませんか?直接交渉してみますので」 ちょっと考えてプリンスが訊いた。


「それは、申し上げることはできません。企業の秘密に関わることですので」 


「望、どれがうちの木か分る?」 プリンスが望を振り向いて耳元で囁いた。


「多分」 望が前に出て、カリの苗木に近づこうとすると、ガードロボットが前に出て望を止めようとした。ロボットの手が、口頭での警告もなく望の腕を掴んだ時、ミチルがロボットの腕を掴んで投げ飛ばした。高く飛ばされて地面に落ちたロボットから何かが壊れたような音がして、動かなくなった。


「な、何をするんですか?これは暴行、器物破損です。いくらグリーンフーズでも、このような違法行為は許されませんよ」 真っ青になった店長が震える声で叫んだ。


「そのロボットが望に暴力行為を働こうとしたから、防衛しただけよ。ロボットが人間に対して、警告もなくいきなり暴力をふるうということが、どういうことか、御存じですよね?」ミチルが涼しい顔で言った。ミチルはわざとロボットが望の腕を掴むまで待っていた。合法的防衛の範囲をいやというほど教え込まれているのが、役に立った。


「そうですね。どうせ警察を呼ぶつもりでしたから、ついでに御社のロボットに暴行されそうになった件も通報致しましょう」 プリンスが冷たい表情で言った。


「ちょっとお待ちください。何も警察沙汰にしなくとも話し合いで解決できれば」 店長が言いかけた時、彼のLCが鳴った。


「失礼します」店長は慌ててプライベートモードの通話を始めた。通話は数十秒で終わり、こちらを向いた彼の顔は通話前とは違って自信を取り戻したようだ。


「この苗木を予約しているお客様に、そちらの事情をお話ししたのですが、幸いなことに、1本だけなら譲っても良いとおっしゃっておられます。お客様も事情があって急いでいらっしゃるので、無駄に足止めされても困るから、1本なら差し上げるので、残りの苗木をすぐに送るようにとのことです。そちらの盗まれたとおっしゃっる木は1本でしたよね?」


「おじい様、どう致しますか?このように多くの木と見分けがつかないようにされて、そのうち1本だけ、というのでは、こちらの木が返って来るかどうかわかりません。私としては、ロボットの暴力行為の件もありますし、警察を呼んだ方が良いのでは、と思いますが」 プリンスがまじめな顔で祖父に提案した。


「そうだな。研究所でどれがうちの苗木か調べないとわからんからな」 祖父が頷いた。


「それは困ります。こちらは、そちらが盗まれたとおっしゃるから、身に覚えがないのに、同じ苗木を1本差し上げる、と言っているのです。同じカリの苗木に特に違いなどございませんでしょう?これ以上は言い掛りではありませんか。グリーンフーズともあろうものがそのような言い掛りをつけるなど...」 なおも言いつのろうとする店長が、いつの間にか苗木の1本に近づいた望を見て言葉を止めた。


「プリンス、1本貰えるなら、これを戴いて行こうよ。もう遅くなったし、ロボットの件はミチルが守ってくれたから問題なかったし」 望はそう言って苗木の鉢を抱えた。


「望がそう言うなら」 プリンスはしぶしぶと言う様子で店長を見た。


「それでは、そちらの言う通り、一本だけ戴いて、この件は取り合えず水に流しましょう。失礼します」


「いや、その」 青くなったり、赤くなったりしている店長を置いて、望達一行は車に乗り込んだ。




モスクワ研究所に戻った望は、研究所に置いたカリの鉢の横に持ってきた苗木を置いた。


『カリの子分を助けてくれて、有難う』カリが嬉しそうだ。


『怖かったの。ありがとう』子分も嬉しそうだ。


「プリンス、この子は連れて帰ってもいいかな?大分怖い思いをしたみたいだし」 


 望達を遠巻きにしている所員達から悲鳴のような声が上がった。


「そうですね。ここのセキュリティを見直すまでここに置いておくのは危険ですし、連れて帰りましょう」 プリンスが言った。


「ところでおじい様、あの男の言う顧客が誰かわかりませんか?」


「今調べているところだが、どうも店の記録にはカリの苗木の予約は載っていないようだ」 


「ハチに頼めるかな?」 プリンスが望を見て訊いた。


「勿論」 望がハチに尋ねると、数秒でピエロブ園芸店の顧客リストから、先ほど店長とプライベート通信をした相手を特定した。


「ザ ファーストか」 おじい様が唸った。 ザ ファーストはグリーンフーズに次ぐ食品業界の大手だ。 ただ、昨年のマナフルーツ販売からグリーンフーズとの格差は開くばかりだった。


「あそこなら、モスクワ研究所から裏切者を出すことも、簡単にできるでしょうね」 とプリンス。


「まあ、そこまでわかれば後はわしに任せろ。必ずこのつけは払って貰う」祖父の力強い言葉に送られてそのままネオ東京に戻ることになった。


「ミチルに良いとこ取られて、俺の出番がなかったぜ」


「馬鹿な事言ってないで、少しでも寝ないと、帰ったらネオ東京じゃもう朝で、そのまま学校よ」

ミチルの言葉に全員が唸って、目を閉じた。



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