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99. 誘拐、救出作戦

「カリ、カリの子分達は皆元気にしている?」 漸く部屋に戻った望は、カリにエネルギーをあげながら、気になっていた事を聞いてみた。


『子分は元気。お母さんと会えればみんな嬉しい』 


「そうだね。会いに行きたいけれど、いろいろなところに行ってるから、なかなか会えないよ。ごめんね」 望の代わりをしてくれているのに、すまない気持ちになる。


『大丈夫。皆に会って』 カリがそう言うと、望の脳裏に様々な意識が流れ込んできた。その数の多さに、さすがの望も処理ができない。


「ちょっと待って、カリ。少しずつにして」


『わかったの』 カリがそう言って、意識がゆっくりと流れ始めた。望はもともと並列思考が人並外れていたが、植物たちと交信するようになってからその処理能力が格段に上がっていた。それでも300の苗木からの交信には時間がかかった。殆どの木は、大切にされているようで、満足そうな感情が伝わってきた。望と触れ合えて喜んでいるのが伝わって来る。少し疲れているような様子の子達もいたので、カリに確認してその子達のいる場所を記録する。カリは地球上の場所の把握ができている、賢い子だ。あとは、プリンスに伝えて何とかしてもらおう。


「カリ、ちょっと待って」 ある苗木の困惑と怯えが伝わってきて、望はその木に意識を集中する。木は目で見ているのとは違うが、確かに周囲を”見て”いる。自分にとって害になる敵が近づいた時などは、かなり遠くからでもわかる。


『どうしたの?』

『カリのお母さん、助けて。ここは嫌い』

『どこにいるかわかる?』

『動いてるの。すごくいやな感じ』望はカリを通じて、場所を確認した。モスクワの郊外のようだ。望の知る限り、あの辺で、苗木が送られたのは、モスクワ研究所だけのはずだ。

『もう少し、がまんしてね。出来るだけ早く助けに行くからね』 

『がんばる』


「カリ、この子とずっと繋がっていてね」

『わかったの』


「プリンス、誘拐されたみたい!」


「誰が?」慌ててプリンスの部屋に行って叫んだ望にプリンスが驚いて訊いた。


「誘拐?」ミチルが部屋から出てきて望に詰め寄った。騒ぎを聞きつけて、今夜はここに泊まっていたリーも起きてきた。


「カリの子分だよ」 望の言葉に三人とも一瞬、呆けたが、プリンスはすぐに理解したようで、詳細を訊いてきた。望がすべて話し終わる前にLCに指令を出し始めた。


「その位置なら、間違いなくモスクワ研究所の苗木でしょう。今研究所の護衛に連絡をとりました」


 すぐに連絡があり、苗木はそこにあると言われた。


「木のイメージを」プリンスの命令で、護衛が木のイメージを送ってきた。高さ1メートル程のカリの木だが、望の”カリ”から生まれた木ではない。似ているが、全然違う。


「これは違うよ」 断言する望に反論しようとする研究員を遮って、プリンスが研究所の資料を確認するように命じた。すぐに、別の木であることがわかった。


 詳しい状況を調査するように命じて通信を切った。


「研究所まで連れて行って貰えないかな?」あの子の心細そうな声を思い出して、心配でたまらない。


「今から向かっても数時間はかかります。もうすぐおじい様が研究所に着きますから、おじい様に捜索をお願いします。カリのお陰で大体の場所がわかっているのですから、おじい様なら、必ず見つけます」


「でも、僕が行けば何か役に立つことがあるかもしれないよ」必死に言う望に、プリンスが頷いた。


 それからのプリンスの行動は素早く、10分後、望達4人とカリ、護衛4人がモスクワに向けて出発した。


 真夜中近くのため上空が空いていたおかげで、3時間後にはグリーンフーズのモスクワ研究所に着いた。着陸した望達を出迎えたのは今日別れたばかりのプリンスの祖父だった。


「おじい様、何か進展はありましたか?」 疲れた様子のグリーンフーズ社長が、プリンスの問いに渋い顔で頷いた。


「ああ、ちょっと面倒なことになっておる」


 


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