98.裏切り者探し
「アレクサンドル、このような事になって本当にすまなかった。望君にも迷惑をかけて、申し訳ない」 プリンスのお祖父様がしきりに謝っている。
あれからすぐにパーティをお開きにして、今家にいるのは望達以外はプリンスの祖父母4名だけだ。エレーン ロスコは警察に引き渡された。
「お祖父、おばあ様達のせいではありませんので、そんなにお気になさらないで下さい。でも、この家に連れてくる人に関してはもう少し、注意をお願いします。まして今は私だけでなく、私の友人達も住んでいますから」
「ああ、わかっておるとも。アダムの奴が身元の確かな娘だというからうっかり信用してしまった。勿論簡単な身元照会はしたが、問題なさそうだったしな。今度からは誰の紹介でももっと厳重な調査を行う」
「それにしても、あの娘はなぜ、木の枝など折ろうとしたのかしら?」 黙って訊いていたプリンスの祖母が首を傾げた。
「お祖母様、これは社内の機密事項なので」プリンスが祖父の顔を見た。
「まあ良いだろう。リズにはまだ話してなかったが、この望君の木から生まれた苗木が、マナフルーツの芽を出す方法を教えてくれているんじゃ」
「??」 祖母が全くわけがわからない、という顔をした。
「まあ、そう言っても信じられんだろうし、私も説明できないが」
「よくわかりませんが、この木がマナフルーツにとってとても大切な木だということはわかりました。それで、枝を折ってそこから育てようとしたのね。でも、この木とマナフルーツの関係をどうやって知ったのかしら?わたくしでさえ、今初めて聞きましたのに」
「アダム叔父上もその事はご存知ないはずですから、叔父上からではないと思いますが」プリンスが考え込んでいる。
「カリの子分達は随分あちこちに行ってるから、誰かが話したのかもしれないよね」 望は、300本の苗木が何万人もの人にエネルギーの伝え方を教えている事を思って、秘密にしておくのは大変だろう、と思った。
「いえ、あの苗木がカリから生まれたことを知っているのは、ごく限られた人間だけです」プリンスにそう言われて、そう言えばその事は誰にも話してなかったな、と気がついた。
「そうだった。カリと苗木の関係を知っているのは、僕達以外では…ハワイ島の研究所の人?」
「いいえ、彼らにも、苗木は送りましたが、どこから来たのかは教えていません」 プリンスはそう言って、祖父の顔を見た。
「私が話したのは、ドミトリお祖父様だけです」ドミトリ オルロフはプリンスの父方の祖父でグリーンフーズの社長だった。
「わしは誰にも話しておらん…待てよ」 祖父は記憶をたどるように目を閉じてから、自分のLCにロシア語で何事かを早口で尋ねた。LCが何かを同じ言葉で答えた。
「そうだったな。あまり荒唐無稽な話だったので、モスクワの研究所に苗木を送って研究してもらおうと思ってな、その時に所長にどこから持ってきた苗木か話した。他は誰にも話しておらん」そう言うと、思い切り渋い顔をした。
「イワノフ所長ですか。彼がグリーンフーズを裏切るとは信じられませんが、グリーンフーズの内部から情報が漏れたのは間違いないでしょう」 イワノフの学者らしからぬ豪快な顔を思い出しながら、プリンスが言った。
「わしもあれが裏切るとは想像できん。しかし、あの研究所からの線が一番濃厚だな。わしが行ってこよう」 祖父がそう言って立ち上がった。
「おじい様、どうか気を付けてください」 プリンスが心配そうに言った。
「モスクワ研究所から漏れたとしたら、わしの責任だ。必ず事実を明らかにするから、心配するな」
プリンスの祖父は力強く言った後、他の3人を連れて急いでプリンスの家を去っていった。