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89. もっと忙しくなった

「望、ソファーで寝るんじゃないわよ」 火星へ送る子達を大急ぎで準備して、次の朝、プリンスがよこしてくれたグリーンフーズの車に乗せた望は疲れ切って、リビングのソファーに横になっていた。ほとんど寝ていないので、横になった途端に瞼がくっついた。


「おばあ様、もう少しだけ眠らせて~ 痛いっ何するの」 思いっきりソファーから叩き落されて、床に転がった望は眠気が覚めて目を開けた。


「なんだ、ミチル?ひどいじゃないか」ぶつぶつ言いながら、ソファーに座りなおす。


「今日は会社のミーティングに参加する予定でしょ。早くしないと遅れるわよ。私は望のおばあ様でも、アシスタントでもないんですからね」 プリプリしているミチルは、おばあ様と間違えられたのを怒っているようだ。


「そうだった。あんまり疲れて忘れてたよ」 時間を確認して、まだ少し余裕がある事を確かめてから、コーヒーを淹れ、ジェネシスバナナを一本とって、食べ始めた。ミチルの分のコーヒーも淹れて手渡すと、ミチルも横に座って飲み始めた。ミチルも、黙ってコーヒーでも飲んでいると”大和撫子”に見えるのに、口を開いたら本当に残念だよ。


『お母さん、ヤマトナデシコってなあに?』 どうやらカリが望の思考を読んだらしい。


「日本地区の昔の言い方でね、控えめで、きれいな女の人を言う言葉だよ」 思わず声に出して返事してしまってから、しまった、と思って隣のミチルを見ると、案の定疑わしい目付きでこちらを見ている。


「日本の、控えめで、きれいな女の人...大和撫子?なんでそんな話をカリとしてるの?」 


「カリがどういう意味かって訊くから教えてただけだよ。カリはいろいろな言葉に興味があるからね」


「カリは誰からそんな言葉を聞いたのかしら?望よね」ミチルがますます疑わしい者を見るように望を見ている。これはごまかさないとまずい。


『そう。お母さんがミチルは黙っているとヤマトナデシコに見えるって言ったんだよ』 カリの声がミチルに聞こえなくて、本当に良かった。


「僕そんなこと言ったかな?そんなことより、もう行かなくちゃ」 望は慌てて立ち上がった。




「望様、今日は開発部のミーティングに参加していただいて、有難うございます」 


「タカギ部長、お久しぶりです。僕の予約分この頃遅れがちで、すいません」


「いいえ、望様のプログラムについては、もともと十分な余裕を見てありますので、遅れているということもございません。お客様にも、その点は最初にご説明してあります。時間がかかっても望様にお願いしたい、という方々しかお受けしておりませんので、そう焦らなくても大丈夫ですよ」


「そうですか?」 露骨にほっとした顔をする望を見て、ミチルが横で余計な事を、とタカギを睨んだ。

「望はそれでなくてものんびりしているんだから、もっと急かしておかないとダメよ」 ミチルに文句を言われてタカギの顔色がちょっと悪くなった。


「ミチル、言われなくてもわかってるよ、もう。それよりミーティングの時間ですよね」


 それから2時間、現在のラストドリームプログラムを、どうしたらもう少し手頃な価格で提供できるかを部員達と話し合った。途中から祖父の亜望も参加してなかなか熱のこもった議論が交わされた。睡眠不足だった望は途中で眠くならないかと心配していたが、興味深い内容で、全く眠気を感じないうちにミーティングが終わった。


「望、昨日は大変だったらしいな。疲れてるだろう?」 


「大丈夫です、おじい様。大変興味深かったです」


「私もですわ。父からラストドリームの価格をもう少し低くする方法を研究していると聞いていましたが、皆さん色々な方法を考えていらっしゃるので、感心しました」 


「そうだな。できれば年内には価格を下げることができるように頑張っておる」


「年内ですか?」それだともう2か月もない。ミチルも年内と聞いて目を見開いている。


「ああ、新年のパーティでの発表を目指してどの部署も必死だよ」


「皆さん、大変ですね」 他人事のように感心している望をちらりとミチルが見て、何か言いたそうにしたが、諦めたように口をつぐんだ。


「まあ、大体の計画は纏まったから、後は仕上げだ。こればかりは安くして品質を下げるわけにはいかんからな。望にもひと頑張りしてもらわんと」 亜望が望の肩をポンと叩いた。


「えっ、僕?」 驚く望の横で、ミチルがやっぱり、という顔をしている。


「ああ、さっきのミーティングで話したように、加速を20万倍から30万倍に上げることに成功したことで、コストを下げることができる。 しかし、そのためにはこれまでの全てのテンプレートを作り直さなくてはいかん。今使っているテンプレートはすべて望が作ったものだからな」ちょっと申し訳なさそうに亜望が望を見た。


「すべての...」 望が絶句した。






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