87. 火星からのメッセージ
「おじい様、どうしたの急に」祖父の書斎に入ると、祖父が待ち構えていたように立ち上がって望の肩を抱き寄せ、客用のソファーに座らせた。
「ああ、呼びつけて悪かったな」昨日祖父から連絡があり、今度の週末には京都の家に帰るように言われた。 ギリアンとの約束もあるので、ちょっと忙しい、と言ったのだが、大事な話があるから、と言われて今朝こちらに来た。ちなみに、カリとゴーストも一緒だ。
「実はおまえの両親からの通信が届いてな、望宛のメッセージなんだが、私達も一緒に見て欲しいとメモがついておった。しばらく顔を見てなかったし雅も望の顔を見たいと言うので無理を言った。この頃の望を見ていると、暇になるのを待っていると、何時になるかわからんしな」 そう言えば夏休みも結局忙しくて帰ってこれなかったんだった。
「雅おばあさまにもすっかりご無沙汰して、ごめんなさい。なんだかどんどんやる事が増えちゃって」申し訳なくてシュンとした望に、元気なのが一番なんだから気にするな、とおじい様が言ってくれた。 そこへ祖母の雅が来て、望の隣に座った。ひとしきり撫で回されて、元気なことを確認された後、漸くメッセージを見ることになった。費用がかかることもあり、火星からの私的通信は年に数回あるかなしかだ。誰の誕生日でも新年でもないのにどうしたのだろう。
「 お父様、お母様、望、元気に過ごしていますか? 私達のわがままで、お父様、お母様にはお世話をかけてばかりで、申し訳ございません。 この間のお父様からの連絡で、望がウォルター氏の会社をそのまま引き継ぐ事にして、頑張っていると聞きました。望には向いていないのではないかしら、と思っておりましたが、あちらで砂漠の開発に手を付けているとか。そういった自然と関わる仕事は望に向いているのかもしれませんね。 今日この通信の許可を貰ったのは、望が砂漠で育てているという新しい果物に、私達全員が大変興味を惹かれたからなの。知っていると思うけれど、こちらでも漸く何種類かの野菜を栽培して、収穫することに成功しています。でも、果物はまだ一度も成功していなくて、いろいろ試しているのですが、どれも実をつけるところまでいきません。お父様のお話では、栄養バランスが完全な上に素晴らしい味だとか。グリーンフーズとの共同開発でしたら、望の一存では無理かもしれませんが、こちらに見本を幾つか送ってもらえないかしら。 もうすぐ次の補給便がそちらを出発する予定なので、それに積んで欲しいの。お返事を聞く前に手配をしてしまって申し訳ないのですが、時間の都合上、このメッセージと同時に補給船の責任者にそちらに連絡するように伝えてあります。望が今どこにいるかはっきりわからなかったので、お父様に連絡が行くようにしてあります。」 お母様が話し終わると、お父様がちょっと顔を見せて、手を振って、イメージが消えた。
「お母様もお父様もお変わりなく、お元気そうですね」望はそう言ってため息をついた。
「本当にあの子は優しそうな顔をして強引なところは昔から変わらないわね」 おばあ様がぶつぶつと文句を言った。
「誰に似たんだろうな?」と言いながら思わせぶりにおばあ様を見るおじい様。
「それで、望、どうなのかしら? こんな調子の良いお願い、無理してきくことないのよ」 おじい様をちょっとにらんでから、おばあ様が望に訊いた。
「一応プリンスに訊いてみるけれど、多分問題ないと思う。でも、火星で育つのかなあ?」 それが一番問題だ。