86. ミニカリ
カリの”子分”は300以上いた。望とプリンス、ミチル、それにリーも来てくれて毎日育てたので1週間で1メートルを超えた。カリがもうこれ以上大きくはならないし、お仕事もできる、というので、プリンスの用意した連邦中の農場、30か所に移された。どれもこれまでグリーンフーズ実験用農場か、研究所、工場があった場所の一部とその周辺を広げたという。ここで、カリの”子分”達がグリーンフーズで選抜した農場用作業員の”研修”にあたることになった。これがうまく軌道に乗れば連邦での生産量は激増し、価格も現在より安くできるという。
「望、今度は何を育てているの?」 手の中の小さな芽を見てニコニコしている望を見て、ミチルが疑わしそうに訊いた。
「ふふ、できてからのお楽しみ」 最近漸くミニカリ(これはカリの子分を望が命名した)達をそれぞれの場所へ送り出して毎日のお世話から解放された望は、久しぶりに新しい味に挑戦している。
「ギリアンから新しい企画のお願いが来てたんじゃないの?」 ブレイブ ニューワールドの都会のリトリート(リーの命名をジョーンズ氏が気に入ってリーの許可を得て使っているらしい)はこれまでゲームに来たことのない層を取り込んで大人気なため予約が捌ききれず、現在幾つかの都会の地下に新店舗を建設中だ。その開店のために従来のプログラムにプラスして、新しいものをお願いされている。
「そうだった。ここのところ、ミニカリにかかりっきりだったから、まだ何にも考えてない。困ったなあ」と言いながら大して困った風でもなく芽を植木鉢に植えている望を見て、ミチルがため息をついた。
「だから、無理なら断りなさい、って言ったでしょ」
「だって、ギリアンがすごく張り切ってて、断るのも悪いかなって」 あれから何度かブレイブニューワールドに行くうちに、望達とすっかり親しくなったジョーンズ氏とは今では年の差を超えて名前で呼び合う仲になっていた。やはり祖先がマザーの世界から来たから通じるものがあるんだ、と望は思っている。
「全く、これから学校も厳しくなっていくんだからあんまり手を広げないでよね」 付き添ってく自分の身にもなって欲しい。
「わかったよ。あ、そういえば、優勝おめでとう」 ミチルは今年のマーシャルアーツ大会でも決勝で、今年こそは、と挑んだリーを破って優勝していた。
「いつものことよ」 ミチルは何でもない事のように言ったが、少し嬉しそうだ。
「今年は、リーもかなり頑張ってたみたいだよね。ミチルに勝てなくて、だいぶ落ち込んでるんじゃないかな?」 そういえばあれから3日だが、リーはこっちに顔を出していない。
「そうね。リーも去年よりは伸びたかしら。まだまだだけどね」 私ももっと頑張ろう、とひそかに決心するミチルだ。
「少し優しくしてあげてよ」 ちょっとリーがかわいそうだ、と思った望だ。
「私はいつも優しいでしょ」 望の疑わしそうな眼つきに、ミチルが目をそらした。
「そうね、望が新しいプログラムを創ったら、一緒に試しに行かないか誘ってあげるわ。リーを元気づけたいなら、早く仕事を済ませなさい」 良いことを思いついた、とミチルが言った。
「え~、なんでそうなるの」