78. アカが大きくなった...
プリンスと話しながら、アカにエネルギーをあげていた望はいつもと違ってアカがなかなか”お腹いっぱい”にならないな、と思った。溜めておこう、と思ってるのかな、そんなことできるのかな、それにしても一度にこんなにあげて、大丈夫だろうか?
「おい、望、まだか?もう30分はそうしているぞ」 護衛達の持ってきた道具を興味深そうにいじっていたリーがやってきた。
「えっ、アカの奴、大きくなってないか?」素っ頓狂な声をあげたリーに言われて、望がアカの全体を見ると、確かに大きくなっている。というか、目に見える速度でまだ大きくなり続けている。50センチ程度だった木が、もうすでに1メートルを超えて、まだ伸び続けている。
「おいおい…」 望達や、護衛達までぽかんとして見ているうちに、5メートル程の大きさになった。枝も伸びて赤い葉がついている。
「アカ、こんなに急に大きくなって大丈夫なの?」まだアカの幹に手をおいていた望はすっかり木陰に入っていた。ようやくエネルギーを吸い取られる感じがなくなったので、手を離して全体を見てみる。アカは名前の通り、幹も、葉も赤くてきれいだった。
『アカはもっともっと大きくなるの』もっともっと…どのくらい大きくなるのだろうか?
「望、アカの根は既に20メートルを超えて下に伸びています。水を掘る必要はなかったようですね」 探知機で地中を調べていたプリンスが苦笑いしながら言った。
「20メートル!じゃあ根のほうがもっと伸びていたってこと?アカは凄いね」
『アカは凄いの』 アカが得意そうにしている。
「砂漠の真ん中で良かったわね。ハワイ島でこれをやられたらどうなったかわからないわ」 ミチルが呆れながらもほっとした口調で言った。確かに誰も見ていない場所で良かったよ。
「ああ、疲れた」 望がため息をついてリビングルームのソファーに腰を下ろした。 ミチルとプリンスも心なしかぐったりとしている。 リーだけはまだ元気があるらしく部屋のオートシェフにサンドイッチを頼んでいる。
アカにエネルギーを吸い取られすぎたせいか、単に驚きすぎたせいか、すっかり疲れた望と一行は一旦サイクリングを止めて、エアカーに自転車と一緒に積んでもらい、マックの家に戻ってきた。ネオ東京に帰る前にもう一度アカの様子を見に行くつもりだ。
「それで、結局アカは何の木なんだ?」 分厚いお肉に見えるものを挟んだサンドイッチを頬張りながらリーが訊いた。
「何の木って、そんなことわからないよ。多分、これまではなかった木だろうし」困ったように望が答えた。
「あれ、目立つからな。いくら砂漠の中でもそのうち誰か気がつくんじゃないか?」
「そうですね。早めに手を打った方が良いかもしれませんね」 プリンスが何か考え込んでいる。望はプリンスが考え込むと少し不安になる。
子供の頃に望がある島の亀が絶滅しそうだと聞いて心配しているのを見て、考え込んだプリンスが、次の日には島ごと買ったから大丈夫だ、と言った。 あれからどうもプリンスが考え込むとおおごとになるような気がして不安になるのだ。