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76. 望の果物が売れてます

「どうなってるんだ! 種があるのに芽が出ないわけないだろう? あの果物は一体何だ? 情報部は何をしている」 香港にあるミラクルフーズビルの最上階では、代表のシャオ シャンが怒鳴り散らしていた。  部屋に呼ばれたミラクルフーズ食品研究所所長、情報部部長、傍に控えるアシスタントは、青白い顔で俯いていた。


 グリーンフーズが最近売り出した数種類の果物は工場生産ではない、天然物だというのに、価格が従来の天然の果物の半分以下、その上味の多様性は人々の想像を超えていた。発売と同時に売り切れとなり、現在予約が殺到しているという。

 ミラクルフーズでは何とか幾つかの実を手に入れ、分析に回すと同時に早速促成栽培を始めていた。だが、これまで一つも芽が出ていない。


「分析の結果はどうだ?」


「はい。間違いなく天然の果物です。しかも広告通り、ほほ完全な栄養バランスです」所長は恐る恐る顔を揚げて答えた。


「そんな馬鹿な。天然物で完全な栄養バランスなどあり得ない!何か秘密があるはずだ」 所長はあり得ないといわれても分析結果に間違いはない、と内心思ったが、自分に矛先が向くのを恐れて口に出すことはなかった。


「芽が出ないなら、誰かグリーンフーズの研究員を連れてきてやらせろ。できなかったら、お前たち全員地下工場送りだ。研究員の一人や二人連れてこられないようなら、AIの方がよっぽどましだからな」


 そのような荒事は自分達の仕事ではないはずだ、と所長は代表のアシスタントを見たが、目をそらされた。シャオ シャンは情報部部長に目を向け、早く行け、というように手を振った。どうやら自分にやれということでないらしい、とほっとした所長は頭を下げると慌てて情報部部長の後について部屋を出た。情報部がどうやってグリーンフーズの研究員を連れてくるつもりなのか、知りたくなかった。




「うわあ、見違えたね」 望は半年ぶりに訪れた西オーストラリアの砂漠開発地域にいた。しかし、そこはもはや砂漠の面影などなかった。半年前にはまだ赤い砂の上に少し灌木が伸びているだけだった一帯には緑や紫色の葉をつけた木が見渡す限り生い茂っている。 その一部には赤や黄色、紫色の果物が実っていた。 木々の間をせっせと歩いて木を撫でて、声をかけて行くのはここで雇われている人達だ。


「ええ、地下工場の”人間枠”で働いていた人達のなかから希望者を募ったところ、連邦でも、A&Aでものすごい数の応募がありました。そのおかげで、よりこの仕事に適性のある人達を選ぶことができました」 人間でなければできない仕事であること、地下ではなく地上の仕事であることなどが伝わって、今でも応募者は絶えないという。


「適性ってなんだ?」適正テストのことを考えて、ちょっと顔をしかめたリーが訊いた。


「木にエネルギーを与えると早く、美味しく育ちますが、これが簡単にできる人と、できない人がいることが判明したので、簡単な適性テストをすることにしたのです」 希望者全員雇ってあげたいですが、それは無理ですしね、とプリンス。望の意見で、この果物の管理をAI任せにすることをやめ、これという仕事を持てない層の人達を積極的に雇うことにした。彼らが生き生きと木々の間を行き来するのを見て、そうして良かったと望に感謝している。 


「大丈夫なのか?こんなに人を雇って、採算はどうなんだ? 情報が洩れてどこかに真似されたりしないのか?」


「採算は十分とれていますよ。真似されても、構わないと思っているのですが、今のところ種から芽を出せるのはごく一部の人間だけなので、彼らの身辺警護はしていますよ」


「えっ、そうなの? ハワイ島の研究所では皆芽が出せたんでしょ?」 ミチルが訊いた。


「ハワイ島の植物研究所は、望が教えたので、殆どの所員が芽を出すことができますが、それ以外の人間では難しいようです。他の研究所でもやってもらいましたが、最初に望が教えなければ無理でした。それに、全く新しい果物を作ることができるのは、今のところ望だけですから、他が真似をしようとしても苦労するでしょうね」


「それじゃあこれ程たくさんの苗木を作るのは大変だったんじゃない?」望が心配そうに訊いた。


「そうですね。まあ、ハワイ島の研究所はいろいろとと失点がありましたから、ちょうどいいペナルティとして、現在は全員苗木育てをやってもらってます」 プリンスがちょっと悪い笑顔で言ったので、望は思わず研究所の皆の無事を祈った。

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