表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/30

第9話

◇ ◆ ◇


「あれ? あたしたち、酒場にいたんじゃなかったっけ……?」


 宙を疾駆するホバーボードの上で、知里は意識を取り戻した。


 今さっきまで、『時空の宮殿』へ出発するため、メンバーと旅の計画を立てていたところだった。

 回想の幻術だとしたら、やけに鮮明だ。

 まるで追体験したかのように、過去と現実が曖昧になっている。


「お人形さん、操縦ありがとにゃ」


 ここは『時空の宮殿』の大広間。

 プラチナから瑠璃色へと体色が変わった巨大昆虫(スカラベ)との戦闘のさなかだった。


「幻術がかかったのは一瞬だったようですね。助かりました」


 だが2週間ほど前の過去に飛ばされていたような感覚があった。


「ソロモンの解除魔法(ディスペル)のせいで、何だか今までより少し長く意識が飛ばされてたような気がするんだけどにゃ……」

「同感です」


 もっともだと言わんばかりに自動人形(オートマタ)が頷く。

 ホバーボードは1人乗りだが、知里は小柄なので人形を同乗させるにはちょうどよかった。


「次に幻術攻撃が来たら、誰が解除魔法(ディスペル)をかけますか?」


 人形が少し可笑(おか)しそうにしながら知里に聞く。


「つまり、次はあたしの番だってことが言いたいんでしょう、お人形さんは?」


 知里は中空を飛び回りながら、グンダリ、アンリエッタ、ソロモンの無事を確認する。

 3人とも意識を取り戻したようだ。

 

「装甲の色が変わったにゃ」

「ええ、プラチナのときは魔法反射でしたが、瑠璃色になって魔法吸収へと装甲の特性が変わったのかもしれません。憶測ですが」

「あの虫さん、思考があるかどうかは別として、あたしたちが魔法偏重のパーティだということは認識しているみたいね」

「では、グンダリの物理攻撃で攻めましょう」


 すると、戦車ほどもある巨大昆虫(スカラベ)が、魔力を充填し始めた。

 太い前脚2本の間に挟まれるようにして現れたのは、高エネルギー体の火球。

 沈む太陽のように、みるみる大きさを増していく。


「玉か……。フンコロガシなのだから、やはりこうでなければな?」

「感心してんじゃねぇぞソロモン」


 ホバーボードに乗った知里と人形がグンダリとソロモンに近づいた。


「ソロモン、虫さんの装甲に魔法は効かないにゃ。でもあの火球になら氷属性の魔法が効くかも」

「あの火球が照射される前に先制攻撃します。氷属性をぶつけたら、グンダリ、距離を詰めてください」


 自動人形(オートマタ)が補助魔法を詠唱する。


「――高速化魔法(ヘイスト)!」


 パーティ全体の速度と会心率が上がった。


「あたしが火球(コア)に氷槍をぶち込む。衝撃(インパクト)が起きるから、ソロモンは距離をとって全体に熱ダメージ防御の術式をお願いにゃ。お人形さんが援護するから、かなり強力なやつね」

「承知」


 ソロモンはホバーボードで宙に陣取った。


「グンダリ、虫さんのそばで爆風に耐えられるかにゃ?」

「おうよ。そよ風みたいなモンだ」

「守備力上昇を厳重に掛けておきます。踏ん張って」

「……いくにゃ!」


 知里が高速詠唱で大気中の水分を氷結。

 二股(ふたまた)の長大な槍を出現させた。

 2本の細い柄が螺旋にねじれた印象的なデザインの槍である。

 造形にこだわり、余計な魔力を使ってしまった。


「行け! ロンギヌ……じゃなくて、投げれば刺さる自動追尾の槍!」


 知里の投擲(とうてき)モーション。

 氷槍は吸い込まれるようにスカラベの太陽に刺さった。

 凄まじい爆発が起きたかと思うと、ついで強風が爆心地に向かって逆に流れた。


 逆風に戦車ほどもある巨大昆虫(スカラベ)が軽く舞い上がる。

 中衛組は結界を張って核爆発のような爆風をしのいだ。


「うおおおお!」


挿絵(By みてみん)


 スカラベとともに舞ったグンダリが、真空飛び膝蹴りをくらわせる。

 スカラベがのけ反ったところを仰向けにし、抑え込みにかかった。

 肢をバタつかせる虫の腹側に乗ったまま、轟音とともに地に押さえつける。

 アンリエッタが脇から飛び出て、ワイヤーのついたリング・ダガーを投げ、6本の足を仰向けのまま地に固定させた。


「おう無事だったか、女盗賊」

「ダガーをよけてよ、剣士さん」


 アンリエッタが息つく間もなく麻痺薬を塗ったダガーを数本、昆虫の節に打ち込む。

 その間、グンダリは大剣〝鉈大蛇(なたおろち)〟を両手に構え、闘気を溜めている。


「ハァーッ!」


 大剣をぶん回し、重い一撃を当てる。

 えぐるように大きく腹を()(さば)いた。

 体液が噴き出す。

 勝負あったかに思われた。


「あっ……、また!」


 昆虫の装甲の色が変わり始めた。

 柔らかいはずの腹に、グンダリの大剣が急に弾かれる。


「特性が変わったのかもしれません」


 人形が息を吞むように言った。

 同時に、また万華鏡が回るような感覚に襲われた。


「――グンダリ、フジコ、退避にゃ!」

「幻術攻撃が来たな。今度はネコチ殿の番だぞ」


 ソロモンが知里に幻術に対する解除魔法を促す。


「え、やっぱ、あたしの番? ……ええい……――解除魔法(ディスペル)――!」


 冒険者たちは再び深い酩酊の闇へと沈んでいった。





本作は『恥知らずと鬼畜令嬢』https://ncode.syosetu.com/n3696gi/

スピンオフになります。

挿絵(By みてみん)


本編はギャグ多めの基本ポップな作風です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ