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第8話

挿絵(By みてみん)


「ねぇねぇネコチ、今回はこの面子で『時空の宮殿』に挑むわけ~?」


 あっけらかんとしながらも、女盗賊〝紅薔薇のアンリエッタ〟は少し意外そうな顔で確認した。

 知里がキャットマスクをつけている時はネコチと呼ぶ。


「初対面でパーティ組むなんて、駆け出しでもあるまいし……」

「……こちらの方は?」

 

 アンリエッタの出現を不審がった魔導士ソロモンが、紹介を求めた。


「彼女は〝フジコ〟。女も惚れるいい女。どんなものでも盗む人」


 知里はアンリエッタを暗号名で呼んだ。

 アンリエッタは盗賊が生業で、シティアドベンチャーを得意とする。

 街なかの人間を相手にしているので、いくつか偽名をもっているのだ。


 もちろんギルドマスターや冒険者の店に集まる顔なじみには筒抜けではある。

 が、そこには触れないのが暗黙の了解になっている。


「フジコで~す。よろしくね~」

「盗賊か。腕は確かなのか? いや、S級か……」


 剣士グンダリは自分で疑問を口にして、思い出したように訂正する。

 アンリエッタは、強く頷いた。

 

「前人未到の遺跡なら、罠がわんさか残ってるかもね。お役に立てると思うよ」

「……いや、フジコ。あたしは降りようと思ってるんだけどね」

「ナニナニ。せっかくの依頼だよ。すっごいお宝があるかもって話じゃん!」


 半ばアンリエッタに押し切られるような恰好で、5人のS級冒険者によるパーティは結成された。

 パーティ名も決めないような、にわか仕立てのチーム。


 初対面のグンダリ、ソロモン、自動人形(オートマタ)の意図が全く読めず、知里は気が滅入っていた。


「……もの好きにも程があるよ。魔王のいなくなった平和な世の中だってのに、危険を求めてわざわざ冒険に行くなんてさ」

「しかも泣く子も黙る『不死人の砂漠』だよ? さぁて何が出るかな~?」

「フジコは気楽でいいわね」


 表面では他愛のない話で盛り上がっているが、内心でアンリエッタは知里に盛んに話しかけている。


(あの剣士さん、冒険者ギルドの利用は慣れてないみたい。ランク照会ではS級。身にまとう闘気から、間違いなく強いんだろうケド……)


 知里が他人の心のうちを読むレアスキルの持ち主だということを踏まえての、アンリエッタからの一方的なおしゃべりだ。


(S級冒険者ともなるとメンツは限られてくる。どこかで噂を耳にしたり、過去の冒険で一度は顔を合わせているものよ)


 知里は指を1回弾き、聞こえているよ、というサインでそれとなく頷く。


(なのに3人とも、まるっきり初めて見る顔。例えば巨人殺し(ジャイアントバスター)悪魔殺し(デーモンスレイヤー)竜殺し(ドラゴンスレイヤー)……。そういう称号を聞いたことさえないのも怪しいわ)


 しかも、かなり腕が立ちそうだ。


(一体、どこで何してS級に上がったのかしらね?)


 アンリエッタの興味は、時空の宮殿のお宝はもちろん、3人の冒険者にも注がれていた。


(そうねぇ、剣士のグンダリさんはね、背筋が伸びてて、姿勢がきれいね。話し方はぞんざいで粗野に見えるけど、意外といいところの坊ちゃんかもしれないわ)


 なるほど、と知里は頷く。


(魔導士のソロモンさんも同じね。冒険者っていうよりは権威の側にいるような感じねぇ。自尊心が高そう)


 旧王都で探偵まがいの仕事を請け負うアンリエッタの人物評はなかなか参考になる、と知里は思った。


(一見、冒険者風の装備や衣服だけど、なんだか新しいし着慣れた感じじゃないわねぇ)


 うん、と知里は頷く。


(ふたりとも物腰がどこか優雅で鷹揚な感じ。せかせかしたところがない。アタシたちみたいな野生動物とは違うわね!)


 知里は笑った。

 そして謎の魔導士が使役している自動人形(オートマタ)をチラッと見る。


(ああ、あれ! 勇者自治区で売ってる球体関節人形よ)


 アンリエッタは勇者自治区が好きなようで、一人でよく遊びに行く。

 入国にはパスポートが必要だが、そこは盗賊、警備の目を盗んで忍び込む。

 そして一晩中遊んで帰ってくるのだ。


(自治区でもかなり高価なお人形よ。旅が終わったら中の人を追い出して、売り飛ばしちゃおうか!)


 勇者トシヒコによる魔王討伐で、冒険者稼業は時代遅れになりつつある。

 そんな中で、見知らぬ者同士による遺跡探索。

 知里にとってアンリエッタがいてくれることは、とても心強かった。


 ◇ ◆ ◇


「――行程は、片道10日。『不死人の砂漠』にほど近い〝勇者自治区〟を拠点にアタックしようぜ」

「あらいいじゃない。ついでに自治区で美味しい料理を食べましょう!」

「却下」

「ごめん、フジコ。あたしは……自治区の外で待ってる」

「申し訳ありませんが、私も別ルートを希望します」


 剣士グンダリの提案を、アンリエッタ以外の3人が反対した。

 即座に却下したのは魔導士ソロモン。

 名無しの自動人形(オートマタ)は別ルートを希望した。

 

「妙なところで意見が一致したにゃ……」

「理由は聞かない方がお互いのためだろう」


 反対した3人は、顔を見合わせる。

 ガードされているため、知里に彼らの本心は知る由もない。


 知里に関していえば、魔王討伐直前に勇者パーティをクビになった過去をもつ。

 べつに根に持っているわけではないが、自治区の執政官ヒナ・メルトエヴァレンスによる強引な国づくりには、辟易している者の一人だった。


「お人形さんには悪いけど、食料の確保のため、勇者自治区だけは経由させてもらうわ」

「別ルートはいけませんか」

「自治区には、保存に適した食料品が売っているから。買い出しはフジコに任せるにゃ」

「OKまかせて」

「行きたくない奴は馬車で待機してろ。俺は行くぞ」


 パーティは綿密な計画を立てる。

 食料と水の調達方法、既知のオアシスを辿るルートの確認。

 歴戦の冒険者は事前準備を怠らない。


 知里やアンリエッタにとっては初対面の3人だが、準備の徹底には抜かりがなかった。

  

(信用できない奴らではあるけど、危険を共にするに値しないマヌケではなさそうね……)


 アンリエッタの心の声を、知里はスキルで読み取り、頷いた。


「いい? 砂漠の横断で往復20日。宮殿への潜入には7日、長くて10日しかかけられない。それ以上かかると砂嵐に閉じ込められて帰ってこられなくなる。短期決戦にゃ!」


 最初は乗り気でなかった知里だが、すっかり冒険者としてのスイッチが入ってしまった。


「日数が限られているのは助かります」


 賢者・名無しの自動人形(オートマタ)が言った。


「私もこの体で長旅はできませんので」


 球体関節人形を操り、生身の体は遠隔地にあるという。

 本体ともいえる魔導士がどこにいるのか、もちろん自動人形は言わない。

 知里のスキルも通用しない。


(そんな芸当ができるヤツが一体どこにいるっていうのよ、ねえ?)


 アンリエッタもあきれている。

 が、おおよそ見当をつけることはできる。


「どうせ、どこぞの魔術師ギルドマスターでしょ。お忍びで冒険者のマネごとかしら?」

「いえ、私は学者です。法王領内で考古学を研究しています」


 知里とアンリエッタの警戒心が伝わったのか、名無しの自動人形(オートマタ)が弁解するように言った。


「学者さん。ねえ……」

「お見受けしたところ、ものすごい魔力量ですにゃ」

「時空の宮殿には行ってみたかったのです。古代魔法王国時代の、神話や伝説に関する史料が見つかればと」


 2人の懸念を軽く受け流して、自動人形は滔々と語る。


「さすがに一人では辿り着けませんから、旧王都の冒険者ギルドへご相談したのです」

「ふん。歴史なんて研究して何の役に立つっていうんだ」


 グンダリが横から口を挟んだ。


「そういえば、現法王さまが最近、法王領内に学舎を開設したようだな。歴史書の編纂と人材育成のためだとか何とか。そこの関係者か?」


 この人形は答えたくないときには一切答えない。


「また、だんまりか……。魔王が倒されて世界が目まぐるしく変わっているこのときに、古臭いものの研究なんて、まったくバカバカしいぜ」


 悪態をつくとグンダリはその場を離れて行ってしまった。


「お人形さん。冒険は初めてなのかにゃ?」


 知里は自動人形(オートマタ)の顔を覗き込んだ。


「2度目です」


 人形の髪はやわらかい銀色で、人の毛が使われている。

 持ち主の魔導士のものだろうか。


「名無しの自動人形(オートマタ)。呼びにくいですにゃ。〝名無しさん〟と呼ぶのは失礼だし。お人形さんとお呼びしてもいいですかにゃ?」


 紫水晶の瞳が嵌め込まれた、動かないはずの人形の顔が、かすかにほほ笑んだような気がした。



本作は『恥知らずと鬼畜令嬢』https://ncode.syosetu.com/n3696gi/

スピンオフになります。

挿絵(By みてみん)


本編はギャグ多めの基本ポップな作風です。

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