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第21話

挿絵(By みてみん)


「……許してアン。1秒でも早く、奴らを殺す」


 知里はアンリエッタの声を振り切り、背を向けた。


 彼女が死霊となる前に、死霊使い(ネクロマンサー)ソロモンを殺せば、あるいは……。

 闇魔法に覚醒しつつある知里ならば。


 ソロモンを生贄にして彼女を救えるかもしれない……。


 ソロモンと剣士グンダリが一体何者であるのか――。

 おそらくこの場で取り逃がせば、そう簡単には始末できない立場にある者たちだろう。


「冒険者の遊び場に、権力者が土足で踏み込んだ報いを、受けさせてやる」


 知里は失った左手を引き出す。

 闇をまとった幻影の左手だ。


 一瞬、痛みで顔が歪むが、すぐ口元に残忍な笑みが浮かんだ。

 どこまでが自分の心か、そうでないのかは分からない。


 残る命で必死で止めようとするアンリエッタの声は、もう聞こえない。


「アン……。貴女を送る前に、奴らの息の根を止める」


 知里の背中に暗黒のオーラでできた大きな翼が生えた。


「ソロモン、やべぇな。ここは俺が引き受ける」


 グンダリは知里のスマートフォンをソロモンに押し付ける。


「コレを持ってお前だけでも逃げ切るんだ」

「承……」

「遅い!」


 その瞬間、ソロモンの左頬が無残に削り取られた。

 一瞬で歯と歯茎が剥き出しになる。

 血飛沫が飛ぶ間もなかった。


 知里が放った闇魔法〝痛みの変換〟が、無くした左手首の痛みを、射程内のソロモンの身体に変換させたのだ。


「カハッ」

 

 ソロモンの左頬はえぐり取られ、骨がむき出しになっている。

 知里は容赦なく距離を詰める。

 身を翻し、必死に逃げるソロモンと、追う知里。


「させるかよ、騎士の意地でも喰らいやがれ!!」

 

 グンダリは大剣〝鉈大蛇(なたおろち)〟に闘気を放つ。

 (のこぎり)のような刃から、赤いオーラが現れ、刀身を包んだ。


「魔導士の間合いで勝負すんのは分が悪ィがよォ!」


 剣士でありながら遠距離攻撃を仕掛けようというのだ。

 刀身にまとったオーラを振り絞るように剣を振る。

 赤いオーラは波動エネルギーとなって知里を襲った。


「くだらない。……児戯にも等しい」


 知里は左腕を差し出し、赤いオーラを吸収した。


「なんだと?! 吞み込みやがった」


 彼の闘気は魔力に変換され、知里の魔法力を回復させる。

 グンダリは知里の魔法攻撃に身構えたが、違った。


「グレン式格闘術・零式……」


 獣のように腰を低くした知里は、超高速で飛びかかった。

 まさかの近接戦闘。

 魔導士対剣士の定石を踏み外した大胆な攻撃に、グンダリは一瞬怯んだ。


 その隙に、知里は闇をまとわせた拳の雨を降らせる。

 鎧の上から、どこもかしこも狂ったように殴りつけた。


「この型、知ってるぜ。隻腕の傭兵隊長が編み出したっていう技だな」


 彼の言う隻腕の傭兵隊長とは、勇者パーティの軍事顧問であり、勇者トシヒコとともにかつて少女だった知里をスカウトに来たグレン・メルトエヴァレンスのことに違いない。


「そいつの右腕をぶった斬ったのは、俺の親父さ」

「…………」


 右腕を失ったためにグレンは傭兵をやめて旅芸人になり、後の勇者パーティに大きな影響を与えた。


「歴史の因果ってのを感じるぜ」


 グンダリも反撃を試みるが、小回りの利かない大剣では知里の素早い動きに対処できない。


「くだらねえ! 非力な魔導士に鎧の上から殴られたって効きやしねーぞ!」

「殴る? 脳筋は発想が貧弱ね……」


 最後に知里はグンダリの眼球めがけて飛び蹴りを放ち、ソロモンを追った。


「待ちやがれテメェ……うぐっ?」


 無茶苦茶に見えたダメージ(ゼロ)の物理攻撃を受けたグンダリが、膝から崩れ落ちる。

 激しい嘔吐。

 壮絶な不快感に苛まれながら、グンダリは知里を睨みつけた。


「テメェ今なにしやがったァァ!」 

()(どく)でウジ虫をたらふく喰らわせた。あんたは腹を食い破られ、腐り果てて死ぬのよ」


 知里の狙いはソロモンだ。

 彼は闇に紛れて行方をくらましている。


 おそらく沈黙の魔法で、自身の音も消していると思われた。


「無駄よ。逃しはしない」


 知里は光の魔法を応用した電磁波レーダーを創出した。

 魔法銃をアンテナに見立て、性質の異なる物質を探り当てる。

 ソロモンにとっては不幸なことに、ここ〝時空の宮殿〟に余計な構造物はない。


「させるかよォォ!」


 グンダリの渾身の一撃が、知里の背中を捉えた。

 闇の翼で防御態勢を整えるが、ザックリと背中を斬られた。


「クソっ浅いか?」

「しつこいわね」


 すでに蠱毒の回ったグンダリの顔面は蒼白で、紫に変色していた。

 口元からは闇魔法がとり憑いた半透明のウジ虫が羽化しようとしている。


「……行かせねえって言ってるだろ!」

「闇魔法〝痛みの変換〟。……そしてグレン式格闘術・禁色」


 知里が背中の痛みを、グンダリに変換させた。

 鎧の下の肩口が割れ、破裂する。

 しかし彼女に与えた傷そのものが浅かったため、致命傷には至らなかった。


 痛みをこらえながら、知里を両断しようと剣を振るうグンダリ。

 その顔面に、知里の抜き手が伸びて左の眼球をえぐる。

 カウンター攻撃気味に決まった一撃は、グンダリの視力を完全に奪った。

 かのように見えた。


「女ってのは、どうして目ん玉ばっかり狙うんだ。1個しかねえんだから、ちっとは大事にしろぃ」


 グンダリは不敵に笑って右目を覆っていた眼帯を外す。

 眼帯の下にあったのは、宝石の眼球だった。


 その魔力反応は、知里にはとてもなじみ深いものだった。


「スキル結晶……?」

「何でも見通す、とっておきの眼さ!」


 グンダリは不敵に笑って、大剣を水平に構えた。



作者から


第19、20話について、誤字(誤用? より良い言い換え)報告をありがとうございました。

考慮の上、ともに反映させていただきました。

真摯にお読みいただき、感謝しております。

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