表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/30

第19話

手のイラスト、左右逆でした。

作画ミスです。スミマセン……。

挿絵(By みてみん)


 ──誰が敵?

 知里は失血で意識が薄れゆく中、切断された手首をぼんやりと見つめている。


「ネコチ?! 早く回復を! お人形さん!」


 女盗賊アンリエッタがいち早く身をひるがえし、知里の手首をスマートフォンごと拾い上げた。

 そこに伸びる影。


「危ない!」


 ハッとした知里が残った右手で、咄嗟にアンリエッタに魔法反射のバリアを張る。

 彼女を狙って伸びた影は撥ね返され、魔法を放った本人を直撃した。


「……ソロモン? これは一体どういうこと?」

「…………」


 魔導士ソロモンは何事もなかったかのように、自らが放った黒い魔力を掌で受け止めた。

 禍々しい妖気が彼を包んでいる。


「ソロモン……あんた」


 ──グシャッ。


 背後で壺のようなものが割れる音がした。

 知里が振り返ると、剣士グンダリが大剣を振り回していた。


 だが、砕け散ったのは壺ではなかった。


「お人形さん?!」


 賢者の自動人形(オートマタ)が、大剣の一撃で肩から胴体にかけて真っ二つに割れ倒れていた。


「悪く思わないでくれ。いや、ゴネたあんたらが悪いか」

「お人形さんは……あたしたちとは無関係よ。そっちのお仲間じゃないの?」


 ソロモンが突然、敵対してきたことまでは把握できた。

 しかし、どうしてグンダリまでもが裏切ったのか、急すぎて頭が回らない。


「はぁ? 最初から言ってるだろ。法王庁の連中なんざ、こっちには関係ねぇって」


 知里は出血で目がかすんできた。


「回復役は厄介なんでな。なぁに、どうせ本体は死なねぇだろ」


 グンダリは崩れ落ちた人形の上半身を蹴り飛ばす。

 そして勢いをつけて、アンリエッタに斬りかかった。


「そいつをよこせ!」


 彼は左手で知里のスマートフォンを奪い取ろうとする。

 アンリエッタはしなやかに身を躱した。


「──ちょっと待って。一体どうしてこうなるのよ!」 


 グンダリから距離を置きつつ、アンリエッタは突如豹変したソロモンに問う。


「時空の宮殿の遺物で、異界人であるネコチ殿が非常に興味を示すモノ……。それを持ち帰れというのが、わが主の命令でしてね」


 ソロモンを包む闇が禍々しさを増している。

 アンリエッタは息を呑んだ。


「わが主……って」

「ねえ。あたしが興味を示すモノなんて言ってるけど、それは大量生産された電子機器だよ。一点ものの魔法道具(マジックアイテム)とは違う。単なる工業製品……って、意味わかる?」


 知里が話に割って入る。

 そのスマートフォンは兄の持ち物だが、端末自体は大量生産品だ。

 突然パーティを裏切ってまで、手に入れようとする意味が分からなかった。


「……勇者自治区で根気よく探せば、同じ型の端末が手に入る可能性が高い。分かってる?」

「…………」


 ソロモンは答えない。


 知里は彼を見つめながら、考えを巡らせる。

 現代日本から来た知里にとって、〝大量生産〟という仕組みは馴染み深いものだ。

 しかし、この世界には職人の工房はあっても、機械化された生産方式はない。


「電子機器がいくら珍しくても、自治区に行けば、似たようなものはたくさんあるって言ってるのよ!」

「…………これは〝鍵〟。……だそうだ」


 ようやく口を開いたソロモンが謎めいたことを言った。

 知里は元いた世界で「ソロモンの鍵」と呼ばれる作者不明のヨーロッパの古典的魔法書を連想した。

 

(でも、スマホが鍵になる話なんて、聞いたこともない……)


 ……何にせよ、交渉の余地はなさそうだ。

 知里は覚悟を決めた。


「……アン、あたしはコイツ!」

「ネコチ! こっちは任せて」


 一瞬のアイコンタクト。

 知里は残った手でホバーボードを拾い、飛び乗る。


 その直後、アンリエッタが超強酸の入った瓶をグンダリ目掛けて放った。

 息の合った急襲で、有無を言わさず先制攻撃を仕掛けた。


「畜生!」


 グンダリが大盾で瓶を弾く。

 超強酸のしぶきが周囲に飛び散り、床に落ちた液体が煙を上げる。

 飛沫を受けた大楯からも、すさまじい煙が上がり、異臭が広がった。


「酸か!」


 グンダリは大盾のアタッチメントを外し、アンリエッタに投げつけた。

 煙を吹いたフリスビーのように、高速回転で彼女を襲う盾。

 しかし、その方向にはもうアンリエッタの姿はない。


「……と、見せかけて死角から短剣か。物騒な女だねぇ」

「ただの棘よ。紅薔薇のね」


 隻眼のグンダリの死角から、アンリエッタの短剣が残った眼球めがけて投擲される。

 さらに加えて、2撃目の毒瓶が飛んでくる。


 グンダリはまず短剣を歯で受け止める。

 次いで飛んできた毒瓶を手で受け止めると、アンリエッタに鋭く投げ付けた。


「残り1個になった目ん玉なんだから、もう少し大切に扱ってくれよな!」

「見たくないものを見なくて済むから、潰れてしまうのもいいかなって。お節介だったかしら?」


 毒瓶を受け取ったアンリエッタは、短剣に毒を塗らなかったことを少しだけ後悔した。


「大きなお世話さまだ!」


 グンダリはタックルのような勢いで距離を詰め、大剣を振りかざす。


 軽業師のように身を翻し、グンダリの剣技と渡り合うアンリエッタ。

 だが体力の差は歴然だった。

 鍛え上げられた体を誇るグンダリに、ジリジリと追い詰められていく。


 アンリエッタの息は上がり、疲れの色が見えた。


「ハァ……ハァ……」

「あばよ美人さん。一発やりたかったぜ」


 勝利を確信したグンダリの容赦ない一撃。


 だが、それはアンリエッタが仕掛けた罠だった。 

 残された体力で、攻撃を紙一重でかわし、すれ違いざまに毒瓶を叩きつけるアンリエッタ。

 油断していたグンダリは躱しきれなかった。


「グワアアアアッ……熱いぃぃぃ!」

「下品な男は願い下げだわ」


 グンダリの鎧が、煙を吹いて溶けていく。

 態勢を崩した大男の首筋に、アンリエッタの短剣が蛇のように伸びる。


 ちょうど時を同じくして、上空では知里とソロモンの魔導士2人が火花を散らしていた。

 知里は切断された左手首を縛り上げて止血し、冷気の魔法で傷口を凍らせている。


「光弾よ。敵を貫け!」

 

 知里は正確無比で、常人の想像を超える速度で無数の光弾を放つ。

 これに対し、ソロモンは容易に反撃はできない。


 知里には魔法反射の術式がかかっているのだ。

 効果が切れそうなタイミングで、彼女はすかさず魔法反射をかけ直す。


 S級認証の魔導士ソロモンが舌を巻くほど、知里の魔法詠唱速度と正確さは比類がない。


「なるほど、元とはいえ勇者のともがら。一筋縄ではいかぬというわけか」


 ソロモンは光弾をすべて弾き飛ばすと、標的をアンリエッタに変えた。


「黒き影。濃き渦より生まれし汚れた刃よ。()の敵を貫け……」

「え……?」


 知里は絶句した。


 ソロモンが地上に落とした影が、人間の手のよう禍々しく形を変えたかと思うと、グンダリの首筋に短剣を突き立てようとしていたアンリエッタの胸を、えぐり貫いた。


 まさかの上空からのカウンター攻撃だった。

 アンリエッタが喀血して床面に打ち付けられる。


 そして知里の目の前のソロモンが、アンリエッタの心臓を握り締めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ