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第11話

 ◇ ◆ ◇


 ネコチと名乗る、天才魔導士の名は瞬く間に知れ渡った。


 13歳ながら、属性魔法、神聖魔法を修め、凄まじい魔力量を誇る。

 どういう訳か回復魔法こそ使えないものの、回復役の冒険者と組めば、何の問題もない。

 当時は聖騎士崩れの冒険者が大量にいた時代でもあった。


 何よりもチートスキルによって、人や魔物の思考が読み取れる。

 知里の冒険者としての使いどころは計り知れなかった。


 相手の攻撃手段が読めるため、戦闘では圧倒的な優位に立てる。

 人間同士の騙し合いでは言うに及ばず。

 仲間に裏切られ、出し抜かれる心配もない。


 その能力から、彼女が最も得意としたのは王都を舞台にしたシティアドベンチャー。

 人の欲望が渦巻く世界の揉め事の解決だった。

 相棒の女盗賊アンリエッタと共に、都市型の冒険者として名を上げていった。


「アンタのあだ名はフジコ。ね、そうしなさいよ」


 女盗賊アンリエッタの暗号名を決めたのは知里だった。


 その日の仕事は、悪徳貴族に取り上げられた家宝の首飾りを盗み返すこと。

 依頼してきたのは弱小貴族。

 体面を重んじる貴族同士のいざこざで、万が一ことが明るみになると都合が悪い。

 なので、冒険者ギルド公認の〝暗号名〟を名乗った。


「フジコ……? おかしな響き。異界風ねぇ。言っとくけどアタシ、異界人じゃないわよ」

「あだ名なんだから、いいじゃない」


 華麗な女盗賊と、心が読める少女魔導士。

 貴族たちの権謀術数うずまくゴタゴタから、吸血鬼に乗っ取られた村の解放まで。

 密偵も探索も討伐もお手のものの、万能コンビだった。


 ネコチとフジコのコンビは、瞬く間に冒険者の序列を上げていった。

 3カ月でB級、半年もしないうちにA級の冒険者認証を受けた。


「今よ! ネコチ!」

「いっけえええ!」


 知里は史上最年少の13歳で邪龍討伐を成し遂げる。

 この頃になると、凄腕のパーティからも声がかかるようになり、2人はさらに名声を高めていった。

 そのころ、2人の関係性に少しだけ変化が生まれた。


「人の心の闇を見るのはうんざり。都市型の冒険者はもうやめにする」

「知里の好きにすればいいわ。アタシたちは自由なんだもの、それが冴えたやり方よ」


 陰湿でドロドロした人間関係に、知里はうんざりしていたのだ。

 アンリエッタのことは姉のように慕っていたが、彼女が得意とする都市での依頼は、人間の暗部をまざまざと見せつけられて、知里にとっては苦痛だった。


 たとえば、こんなことがあった。

 盗賊にさらわれた貴族の子どもを助け、無事に親元に届けた。

 再会を喜び、抱き合う父母と兄弟たち。

 一見、感動の再会のように見えるが……。


(冒険者風情が余計なことを。先妻の子が死ねば、我が子が家を継げたものを)

(兄さんが助かったのはよかったけど、この家を出なくちゃいけない次男の身にもなってよ)

(あのザコ盗賊め、しくじりおって。……さっさと殺して口を封じておかねば)


 もちろん嫌な面ばかりではなかったが、剥き出しの人間性と接するたびに、知里は疲れてしまった。

 

「もっとシンプルに、信じた仲間たちと協力して冒険したい!」

 

 そう思う知里は、アンリエッタと共に街なかで冒険することは少なくなっていった。


 知里は街から広い原野へと出た。


 当時はまだ魔王が存在し、魔物の数もはるかに多かった。


 世界中の酒場には冒険者がたむろし、隊商の護衛から遺跡の探索、ゴブリン退治に果ては巨竜討伐まで、種々雑多な仕事が山のようにあった。


 広いフィールドで数々の冒険を成し遂げた知里は、仲間の冒険者たちと、今日も歌う。


 ♪ ♪ ♪


 依頼を~受けて~ ダンジョン 潜った~


 石化の~あ~いつは~ コカト~リ~ス~


 瞳が~ 光り~ 出てくる~ 光線~


 仲間が石となり~ 俺たちピ~ンチ~



 逃~げ出すぜ~ 命は~ ひ~と~つだ~けだ


 ダメだ仲間 見捨てられぬ~ 俺たちは冒険者~


 気張って~ み~ても~ 埋まらぬ~ レベル差


 石となり~ 全滅~ それも~人生~


 ♪ ♪ ♪


 それでも、たまに街へ帰れば仲良し姉妹の関係に戻る。


 そんな折、知里の元を2人の男が訪れた。

 鍔の広い帽子を目深にかぶった隻腕の男と、飄々とした細い男だ。


 挿絵(By みてみん)


「ネコチ~ちゃん、は~じめまして~」

「あんたたちは誰?」

「俺の名はトシヒコ。転生者さ。で、こっちの悪党面のチンドン屋が相棒のグレン」

「人相が悪いのはお互い様だろう。元傭兵の旅芸人グレン・メルトエヴァレンスだ」


「……ぷっ!」


 一目見て、知里は吹出してしまった。


 それは彼女が前の世界にいた時の有名なコンビを彷彿させたからだ。

 即座にアンリエッタ=フジコにも会わせたいと思ったが、あいにく彼女は留守だった。


「何だよ、人の見て顔吹き出すんじゃねぇよ。ちっぱいちーちゃん」

「……アンタ、あたしの本名を知ってるんだ」


 心が読める知里には、目の前のふざけた男が、〝知里〟と思い浮かべたのが読み取れた。


「……べらぼうに強ぇ仔猫ちゃんがいると聞いて来たが、ホントにまだ子供(ガキ)じゃねえか!」


「おいおい、初対面の娘さんにそんな言い草はねェだろう。お嬢チャン、気を悪くしねぇでくれ。俺たちゃ見かけほど、悪人じゃねェ」


 知里は少しギクッとした。

 トシヒコと名乗った男は、街中に情報網を持っているようだ。


 後に勇者トシヒコとして名を馳せる転生者と、軍事顧問として辣腕を振るう元・傭兵の旅芸人グレン・メルトエヴァレンス。


 彼らと知里との初めての出会いだった。 


「さすが『他心通(たしんつう)』。心を読みやがったな。なら話が早いぜ。おれ様は『天元通(てんげんつう)』だ。チート同士、仲良くやろうぜ~」


 転生者トシヒコは、人の心が読めるわけではなかった。

 しかし、他人のスキルを変化させる能力を持っていた。


「もっとも、進化させることができるのは『性格スキル』『個人スキル』に限られるがな」


 トシヒコの、一点の曇りもなく自分の能力と才能を信じ切る姿に、知里は気圧された。


「お嬢ちゃんは性格スキルが『根暗』か……。『闇魔法得意』にしてやろうか?」

「遠慮しとく。〝闇〟は嫌いなんだ」

「そいつぁ勿体ねえな。お嬢ちゃんが覚醒すれば、魔王なんてワンパンだろうに……」

「……魔王?」


 この男の心には魔王を討伐するという、強烈な意思があった。


「……魔王を討伐するって、アンタ正気なの?」

「おれは正気じゃねぇかもしれないが、魔王の奴をブッ殺すってのは本気も本気だぜぇ」

「なぜ……?」


 トシヒコの顔が曇ったのを、知里は見逃さなかった。

 心が読めるので、彼が何を思い、そう決断させたかが手に取るように分かった。


「……そう。故郷を、滅ぼされたの」

「おれは排他的な村の生まれでな。転生者ってことで随分と嫌な目にも遭った。でも、だからって皆殺しにすることはねえだろう……」

「辛いなら言わなくていいよ……」


 口に出さなくても知里には分かってしまう。


 トシヒコは転生者で、故郷の村を魔王の手の者に滅ぼされた。

 相棒のグレンは、肺を患っていて、人生の最後に「派手な事をしよう」とトシヒコの魔王討伐話に乗った。


「大事なことだから、口に出して言うぞ。ちっぱいちーちゃん。おれたちと魔王を倒さねえか?」

「それはつまり、スカウトってことね……」


 知里は不敵に笑った。

 なるほど、この2人は見かけほど悪人ではない。 

 飄々とした口調で、つかみどころはないが、2人の心にある軸は少しもブレたりしない。


 知里にとって、これほどの〝信念〟を持つ者たちは初めてだった。


「あたしの名前は零乃瀬 知里。いいよ。魔王、倒しましょう」


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