第1話
全30話で完結します。
「やれるのはお前らしかいない。無事に帰ってきてくれ!」
冒険者ギルドの長はそう言ってS級冒険者5人を送り出した。
彼らが挑むのは遠い砂漠を超えた先にある1000年前の遺跡だ。
その名を〝時空の宮殿〟という。
噂によるとそこには、この〝世界〟を覆すほどの信じがたいお宝が眠っているという……。
◇ ◆ ◇
ここはゲームのような異世界ファンタジー風の世界。
冒険者は剣と魔法で敵を倒し、アイテムを奪う。
どこまでも続く砂漠の空を、冒険者たちは駆けていく。
空を飛ぶ一人用の乗り物〝ホバーボード〟に、それぞれが乗る。
ホバーボードは失われた魔法文明の技術を利用して造られた希少品だ。
操れる者も限られている。
魔法文明の遺物を手に入れるためには、遺跡から発掘するか、法外な値段で買い取るかの二択。
希少品だけに、遺跡攻略の難易度も高くなる。
これから向かう〝時空の宮殿〟にも、眠っているのだろうか。
冒険者たちはまだ見ぬ財宝に胸を躍らせている。
「待って。砂の中に敵がいる」
前に飛び出たのは、白魔導士の零乃瀬 知里。
彼女はギルドが送り出したSランク冒険者の一人だ。
また、現代日本からの〝異世界転移者〟でもある。
「サンドワームだ。デカいぞ!」
「任せて、あたしがやる!」
剣士、魔導士、女盗賊、賢者でパーティを組み砂漠へ出た知里は、砂に潜る巨大な芋虫に襲われた。
サンドワーム。
それは砂漠に住む強い魔物だ。
体長は10メートル以上。
並の冒険者では、まず歯が立たない。
パーティの前衛に立つ眼帯の剣士が大楯を構える。
剣士はグンダリといい、隻眼の精悍な大男だ。
高い守備で前へ出、敵の注意を引く。
「うお、あぶね」
開いた巨大な口から噴き出す、大量の砂礫つぶて。
まるで機関銃の弾丸のようだ。
「あたしが引きつけるから援護して」
知里はホバーボードで空中を疾駆する。
身を翻し、魔物の注意を引きつつ弾丸を曲芸のようにかわす。
避けながら、知里は攻撃の機会をうかがった。
「……次、右からの攻撃で腹が伸びた時がチャンス」
物理攻撃を弾き返す魔法の盾を左手で張り、獲物に急接近。
右の手で、腰に下げた魔弾銃を抜いた。
「いっけえええーー!」
少し舌足らずな掛け声とともに、充填した激烈な魔力をぶっ放す。
放たれた魔力の弾丸は、サンドワームの腹部をえぐり取る。
巨大な魔物は地響きと断末魔の咆哮を上げ、崩れ落ちた。
「瞬殺かよ……」
前衛の剣士グンダリが舌を巻く。
──知里は13歳のときに〝神隠し〟に遭い、この異世界へ来た。
『異世界転生』ならぬ『異世界召喚』によって、何者かがこの世界へ召喚したのだ。
一体誰が何のためにそうしたのかは、10年たった今でも分からない。
ただ、この世界で彼女は、特殊な才能と魔力に恵まれた。
彼女は他人の心が読める。
超レアなスキルの持ち主だった。
それに加え神聖術と属性魔法を扱う、天才的な魔術師でもある。
彼女は黒いゴシック調のローランドジャケットを身にまとう。
純白のボリュームタイのついたブラウスには、魔道銃を納めるホルスターを装備。
フリルのついたスカートに黒いニーソックスを履いて、足元はブロンズ色の編み上げブーツ。
スチームパンク×ゴシック少女趣味。
それが、知里のトレードマークだった。
「ブラボー! ネコチ!」
気心の知れたS級の女盗賊〝紅薔薇のアンリエッタ〟が、陽気に声をかける。
〝ネコチ〟とは、知里の偽名だ。
訳アリの、うさんくさい任務の際に用いる暗号名だ。
ちなみにアンリエッタも今回〝フジコ〟という偽名を使っている。
「女も惚れるいい女」という意味を込めて、知里が名付けたものだ。
アンリエッタは長身で華やかな美人。
白いブラウスと革製のブラウンコルセット。
ゴーグルのついた山高帽がトレードマークだ。
「知里……〝あの人たち〟って、どうよ?」
アンリエッタがホバーボードを寄せて、知里の耳元で囁く。
視線の先には3人のメンバー。
眼帯をした精悍な剣士グンダリ。
細身で背の高いミステリアスな男性魔術師ソロモン。
そして白銀のフードを被った子供のような背格好の賢者〝名無しの自動人形〟。
彼らとは初対面でパーティを組む羽目になった。
「……わかんない」
「アナタが〝わからない〟なんてこと、ありえるの?」
(心が読めるのに?)
と、フジコが内心で知里に話しかけてくる。
内心に思い浮かべたことは、知里には筒抜けになる。
他人の心が読める。
便利な能力だが、それは必ずしも知里を幸せにするとは限らない。
人の心が読めたことで、ガッカリする事の方が多かった。
(他人の心が分からない……)
知里にとって、それは久しぶりの新鮮な経験だった。