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 アクスーキングの海水浴場に移動し、俺はすでに待機している冒険者達の数の多さに驚いてる。

 しかもその場の全員、剣や槍を素振りしたり自身や同じパーティーメンバーに補助魔法をかけていたりと、なんかこの場の全員が活き活きしてた。


 ……ただ殆どが水着を着ているせいか、これから海ではしゃごうとするリア充の集まりにしか見えない。


 ちなみにエクレシアらも普段通りの格好だ。


 ……ちょっとショック。


「えっと……、これもイセセミと何か関係が?」

「君は本当に何も知らないんだね、もう来る頃さ。海を見なよ」


 普段通りの格好をしている恭介の言い方には相変わらずムッとなるが、とりあえず言われるままに俺は視線の先を海に向ける。

 数秒後、次々と浮かび上がる赤い何かが……。

 目を擦りもう一度見てみると、どう見ても形状がセミの幼虫のような……。


 ……なんだあれ?


「おい、ひょっとして決闘の内容のイセセミってまさか……」


 俺が恭介に問いかけようとした時。


「イセセミ狩りスタートだ!! 奴らはまだ幼虫とはいえ成虫同様ピンチになったら鳴き叫び同族集めて反撃する習性持ってるから注意しろよ!!」

「そういうわけだ。ま、僕に絶対に勝てないだろうけど頑張りたまえ、ドライバー君」

「その呼び方やめてくんな……っておい!?」


 ギルドマスターの掛け声と共に、恭介も含めた冒険者達が雄叫びを上げながら一斉に、イセセミの幼虫? らしき物体に向かい海に入って行く。


「ねえ!? 最初から何がなんだかさっぱりなんだけど!? なんでセミの幼虫が海から出てくるわけ!? なんであんなのに冒険者達が必死になるわけ!? あのセミなんでイセセミって名前なわけ!?」

「い、一気に質問されても困るわよ……」


 炸裂した俺のT(ツッコミ)A(アンド)Q(クエスチョン)にエクレシアはたじろぐが。


「とにかく改めて一から説明するから落ち着いて。あれが恭介が言ってたイセセミなの。……とは言っても幼虫だけどね。奴らは海の中で卵から孵化し、陸地に上がって地中に住むの。そして成虫となって地上に這い出て後交尾し、再び海に戻って雌1匹あたり1億ほどの卵を産卵し生き絶えるってわけ。ちなみに名前の由来は以前話したけど、世界を滅亡の危機に晒した伝説の生物『ユグランテ』を、ソフィ様って言う賢者と共に封印した勇者、イトウ・ナオユキ様が最初に見つけて、食べたりなど色々試した結果、彼自身がイセセミと名付けたのが全ての始まり。その時から長い年月をかけて養殖した結果、今の状態になったってわけ。後成虫の時は珍味的な味だけど、幼虫時は海老と似たような味でそっちの方が人気っぽい」


 イトウ・ナオユキ? 誰だそいつ?


「なんか綴りからして日本人のような勇者様っすね」


 チリの咄嗟の呟きから、頭の中で色々思い浮かんできた。


 転生的転移でこの世界に来ることが可能で、剣崎恭介も日本人。

 大昔の勇者、『イトウ・ナオユキ』は日本人っぽい名前。

 イセセミ……、海老のような味……、伊勢海老は有名……。


 ……なるほど。


 名付け親の名前や食べたらエビの味とか考えたら、イセセミなんて変な名前にした理由がよくわかった、名前に関してはスッキリした。

 だけど冒険者達があんなにも必死になっている理由ってのがまだわからない。


「なんやねん、儂一応神さまやのに何が悲しうてこないな幼虫狩りに協力せなあかんのや?」

「いいからとっとと魔力供給!! 言っとくけどイセセミの幼虫はね」


 ネコマタの奴も不満を持ってるらしい。

 無理もねえよ、こんなくだらないこと好んでやる理由なんて。


「おい、漁師から今回の平均相場が出たぞ。今年は成長が良いらしく一匹につき金貨一枚だ。出来る限りセミの幼虫を捕まえてこの中にぶち込んでいけ。ちなみに参加人数も多いし馬鹿でかい金が動くから報酬は後日だってのも忘れるなよ」

「マジっすか!? あんな虫けら1匹如きで!?」


 ギルドマスターの発言を聞いてチリが驚いた途端。


「エビィィィィィィィィィ!!!」

「あ、コラ、ネコマタ!!」


 あの猫、アリスの肩から離れるや否や猟銃持ってセミの群れに突撃しやがったよ。


「ブニャァァァァァァァァァ!!!」

「アタイ行かなくて良かった」


 ……そんですぐにセミどもの逆襲でリンチにされとる。

 まあでも、なんで冒険者達があんなにも必死になっている理由も納得できたが、虫如きで金貨一枚……つまり一匹1万円って、マジでどうなってんのこの世界?


「ちょっと何やってんのよ!? 早く手を握って!!」


 アリスが伸ばした手をネコマタが掴んだ瞬間。


「もう一回レッツゴー」

「にゃそーん!!」


 怪我だらけの猫をまた幼虫の群の中に投げ込んだよこの女!?

 そんなアリスの破天荒な行動に唖然していたら。


「おい……、こいつは祭りどころじゃないんじゃないか!?」

 「やべえぞ……、あんなデカいのは見たことねえ!!」


 咄嗟に二人の冒険者が怯えているような声を耳にした。


 一応これもクエストなのだが、どっちかと言うと祭りみたいなもんだなこりゃ。

 その祭りそのものと言ってもいいようなクエストの雰囲気を冷ますような言い方だ。

 気になった冒険者や、空気を壊され不快な顔をする冒険者達もその方角を振り向いたら、その二人の冒険者と同じ顔色に。

 俺もエクレシアも、その方角を振り向くと、みんなが真っ青になったのもわかる。


「おい……、これやばくないか?」


 見た途端、一瞬体がブルッとした。

 そして一眼見た冒険者達も次々と悲鳴上げて逃げ出しちゃってる。

 無理ないよ。


 だって群の奥先に、馬鹿デカすぎるイセセミがこちら目掛けて進行してきやがってるもん!!


 例のGなんて大きさじゃねえ、少なくとも街の防壁並みのサイズだ。

 そんな奴が二匹もだ!!

 どんなに弱いモンスターと言えども、こんな突然変異的なことが起こらないとあり得ない姿で登場したら、歓喜あふれる祭りの空気も一瞬にして恐怖のどん底になるに決まってる!!

 とにかくひとまずエクレシアにどうするか聞かないと……


「すごい!! あれほど大きいイセセミは絶対戦力になるわ!! どうにかして仲間にできないかしら?」

「だったらこの『桃太郎印の◯団子』って言う宇宙アイテムどうっすか? あ、いやでもサイズ的に効き目があるっすかねぇありゃ」

「お前らの頭はどうなってんだァァァァァァ!!」


 こんな事態にも関わらずエクレシアとチリの脳は変わらず平常運転。

 こいつらの辞書に危機感って文字は存在しないわけ!?


 ……ってかちょい待って? 確かアリスが投げた方角は……。


「ニャワァァァァァァ!! バカデケェェェェェェヒョぐん!!」


 デカすぎるイセセミ向かって飛んでいるネコマタは、そのままイセセミの口? で丸呑みされたんだけど。


「あのセミ野郎!! よくもアタシの使い魔を!!」

「許しませんわ!! イーシズ教の名において天誅いたしましょう!!」

 

 ……うん、仲間思いはいいことだが言わせてくれ。


 ネコマタが喰われたのはアリスが原因だし、こんな状況で姉妹揃って楽しくバトミントンしてるお前らが言ってもふざけてるとしか思えないぞ。


 とはいえこんなエクレシアの姿を見たら、流石のナルシス勇者様も呆れて。


「流石は僕が惚れた美少女だ。みんなが逃げ出す中、僕と同様逃げずに立ち向かおうとしている。だから安心して欲しい。この転生の勇者、剣崎恭介がアクスーキングも、君の仲間も、君自身も守ってみせる!!」


 ……こいつの脳も負けず劣らずのポンコツでしたわ。


 この世界の人ってポンコツ脳(こんな奴ら)ばかりなの?

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