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アクスーキングに着いて4日経った約束の日。


「はぁぁ……、ここもスターラインやサンタロールと何も変わりはしないっすね」

「言うな、チリ。普通に考えれば当たり前だ」


 俺とチリはギルドの机に突っ伏していた。

 点火棒も無事売れ、決闘のセミ採り対策も万全の状態で挑む事ができる。

 だがやはり、修理に役立つ技術や素材が全く見つからない現状は変わりない。

 もう嫌になっちゃうよ……、って思ってた時。


「ツクル、チリ、クエスト掲示板のところに来てほしいんだけど」


 なんかいつも以上に深妙な顔をしたエクレシアがこっちに来たが、出来れば今は相手にしたくない。



「んぁ? クエストの相談? 悪いけど今はそっとしてくれない? こう見えて俺結構ショック状態だからさ」

「そうっすよ。今アタイらの心が突然変異が起きそうで、人からアンデッドになりかけてるようなもんでして」

「そうじゃないの。確定した情報じゃないけど、ひょっとしたらこの付近の近くに魔王軍が滞在しているかもしれないの」


 ……エクレシアの奴、今なんつった?


 聞いて3秒間思考停止した俺達だったが、ひとまず掲示板へと向かう。


「魔王軍幹部と掲示板になんの関係が……、はぁ!? なんだこりゃ!? 全部高難易度クエストしかねぇじゃん!!」

「そして一目見たらわかるように、依頼書の数が少ないのよ」


 そう、スターラインもサンタロールも、この掲示板に隙間がないほどたくさんの依頼が貼られてた。

 だがこの街はどうだろうか? 貼られている依頼は数枚程度のみ。

 しかも全てが最弱職冒険者である俺の手には、とてもじゃないがどうにもなりそうもないクエストしか貼られてない。


「どうなってんすかこれ!? アタイ独自の聞き込みはしたっすけど、ここも初心者冒険者の街っすよ!? それなのになんで初心者の手じゃ無理な物だけしか貼られてないわけ!? アタイら初心者に死ねって言ってるようなもんっすよ!?」

「大丈夫だ。無職以外なることが出来ないお前では、初心者向けのクエストも手に負えないはずだから」


 俺がそう言った後にチリと取っ組み合う中、情報収集を終えたアリスとイリスが戻ってきた。


「冒険者から色々聞いたけどさ、どうもここ最近、弱いモンスター達が怯えちゃって隠れちゃったんだって」

「この街の観測者によるところ、魔力測定ができる魔道具から邪悪で膨大な魔力が感知されまして、それが全ての元凶と思われているらしいですわ」


 それが魔王軍と関係が? だとしてもこんな弱っちい冒険者しかいない街になんのようだよ。

 そもそも普通幹部クラスってのは早くても中盤の後編あたりから姿を見せる中間ボス的な大物キャラだろ?

 その中にはドル◯ゲスや◯マのように、存在感が強すぎて、ラスボスの影を薄くするような奴も結構いるほどのレアキャラだ。

 奴隷の時のオークの時もそうだが、そんな主役の宿敵ポジションキャラがこんなところに何しに来たんだって話だよ。


「それでイリス、その膨大な魔力が感知された方角は?」

「北西方面の森深くにある古城からですわ」


 エクレシアとイリスの会話が、なんかいつもと違って真剣さが漂う。


 おい待て……なんだこの流れ?


 まさか行くってのか!? こんなポンコツパーティーで挑むってのか!?

 いや確かにスーツは完成したよ、でもまだ試験運用してないし、いやしたとしてもその幹部に通用する性能を持ってるかどうかまだ未知数だし。


「待て待て待てって!! お前らともかく俺とチリはまだレベルが低すぎるんだぞ!? そもそも俺はまだ魔王退治に」

「退治に行き魔王の首を討ち取り、魔王討伐後に得られる多額の報酬を用いてエクレシアと結婚するつもりかい? 残念だったね。魔王を倒すのも、世界を平和にするのも、そしてエクレシアの心を寄り添わせるのもこの僕、アクホーン教の信者にして転生の勇者、剣崎恭介が成し遂げて見せる!!」


 ……どっから湧いてでやがったこのナルシスト?

 って思ってたら。


「……マジックスマーッシュ!!」

「ゴボゥア!!!」

「さすが姉様!!」


 アリスの拳骨が奴の頭部にクリティカルヒット。


 アリス…………good job!


「イテテ……、随分手荒な挨拶じゃないか。これだからイーシズ教は(たち)が悪い」

「ちょっと、アタシはイーシズ教徒じゃないんですけど?」


 軽く話した後、拳骨された頭を痛そうに抑え立ち上がる恭介。


「ほう、あのままパーティーを置き去りにして逃げ出すかと思ってたけど、やはりエクレシアが見込んだことだけあって逃げるような真似はしないかったか。惜しいもんだ。恋敵じゃなければ良き親友になれたと思ったのに」


 大丈夫、お前のような自己中ナルシストと友達になる気はない。


「で、どうするんだ? イセセミ勝負なんだがさ、どこまで聞いたか分からないけどデカい魔力を持った奴が現れて弱いモンスターみんな隠れたらしいぞ」

「心配ない、むしろ天敵である野良モンスター達が隠れ潜んだおかげで結構なイセセミが出てくる筈だ」

「は? 言ってる意味がわからないぞ?」

「君はまだ知らないのかい? つまりは漁獲の時期ってことさ」


 え? 漁獲って……なんの?


「……あ、そういえばそうね」

「この街の名物行事、今日でしたの」


 ……うん、俺にはさっぱりわからん。


 だけどアリスやイリス、無言だがエクレシアも何か理解したような顔をしてる。

 後でなんなのか聞いてみよう。

 って思った矢先、ギルドの扉が勢いよく開き、ガタイの良い漁師の男が入ってきた。

 ちょっとびっくりしたけど、こんな酒臭い冒険者ギルドに一体なんのようだ?


「マスター!! 例の行事を始めるぜ」

「おう、承知した」


 急にギルドマスターと簡単な会話した後すぐ出て行った。

 何がなんだかよくわからない。


「緊急クエストだ、参加したい野郎全員揃って海水浴場に集まりやがれ!!」

「ついに今年も来たか!!」

「今年も採りまくって大儲けだ!!」


 漁師が出てった際にギルド内がお祭り騒ぎに。

 そんで装備を整えた冒険者からギルドから出ていくけど、中には海パンだけの奴や、なるべく濡れない服装の奴もいるけど。

 ……うん、側から見ると酷い絵面だ。


「ついに決闘の時だね」

「いや、あの、状況がよくわからないんですけど?」


 余裕満々の笑み浮かべる恭介の発言に腹立つことより、なんのことかまだ理解できてない俺自身がもどかしい気分だ。

 そんな俺の隣にエクレシアが来て呟く。


「ツクル、来たのよ。海から奴らが」

「いや、来たって何が?」

「例のセミ、イセセミの幼虫が!!」


 ……幼虫?? 海から?? どゆこと??

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