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クリスマスイベント企画  作者: 凪野海里
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4話 クリスマス限定メニュー・後編

 レジへ向かうとワクドナルドの店員さんは見事なスマイルを向けて、僕に向かって「いらっしゃいませ!」と明るい声で出迎えてきた。


       

「ご注文をどうぞ」



「……えっと、クリスマス限定の激辛ハンバーガーが1つと、超特大級ハンバーガーが1つで。あと、ドリンクにホットの緑茶、コーラを」



「ドリンクのサイズはいかがなさいますか?」



「どっちもSでお願いします」



「はいそれではお待たせしましたっ!」



 早っ!?



 注文してまだ1分も経っていないというのに、店員さんは僕の前に注文したばかりの商品すべてを載せたトレーをどんっとカウンターに置いてきた。

 しかも激辛ハンバーガーと超特大級ハンバーガーの大きさの違いと言ったら!



 激辛ハンバーガーは全体的に燃えるように赤い。パンは生地に何か練りこんであるのか、赤茶色が目立つし、そのあいだに挟まっている具はハンバーグと一緒になって唐辛子がもはやパンからはみでている。

 でもこっちはわりと普通のハンバーガーと大きさ的には変わり映えしなかった。



 問題なのは超特大級ハンバーガーのほうだ。



 こちらは普通のハンバーガーを何層にも積み上げたように大きく、パン生地は分厚いし、そのパン生地のあいだにあるハンバーグは、5個も挟まっているうえにレタスなんてこれでもかというくらいに大量投入されていて、なんていうか。見ているだけで吐き気がこみあげてきそうだ。



 これを食べるのか?



 海さんが?



「お客様?」



 ハンバーガーの塔の向こうにかろうじて見ることのできる店員さんが、どうかしたのか、と言いたげにかわいらしく小首をかしげている。



 って、いけない。いけない。お金払わなくちゃ。



 たしかいつも、こっちのポケットのほうに……。



「って、ない!?」



 ウソだ! いつも右のポケットにいれているんだから、ないなんてことはない!



「ちょ、ちょっと待ってください!」



 僕は慌てて店員さんに断って、ポケットの中を裏返しにしたり、もしかして左に入れたのかもしれないと思って、そっちに手を突っ込んだりしてみたけれど、どこにも財布らしい感触がしなかった。



 コートを脱いで、その場でバサバサはたいてみるもやっぱり財布はでてこない。打ち出の小づちじゃあるまいし、無限にお金がでてくるということもない。



「す、すみません。ちょっと、ちょっと待って」



 まずい、このままじゃ万引きも同然だ。



 ズボンのポケットを探ろうとしたそのとき。店員さんがためらいがちに「あの……」と言ってきた。



「次、つかえてますので」



 言われて、僕は慌てて後ろを見た。いつの間にかたくさんの人たちが僕がそこをどくのを待っていた。イライラと足踏みしている人までいる。



「す、すみません。でもお代が」



「お代?」



 何のことです? みたいにまたも店員さんは首をかしげてきた。



「お代はいただきませんよ? 今日はクリスマスですから」



 は?



 クリスマスだからお代を受け取らない?



 どうなっているんだ。ボランティアじゃあるまいし……。



「早くしろよぉっ!」



「す、すみません」



 すぐ後ろにいるおじさんが苛立ちの声をあげてきたので、僕は慌てて謝った。



 仕方ない。ここは店員さんに免じてさっさと立ち去ろう。お代はあとで払えばいいや!



 僕は超特大級ハンバーガーのせいで重くなっているトレーを「よいせ」と持ち上げて、海さんのいる席へと戻った。



 海さんはおとなしく待っていたらしく、僕が戻ってくると「遅かったね」と声をかけてきた。



「なんか変なんだ……。店員さんが、『クリスマスだからお代はいらない』とか言ってきて……」



「そりゃそうでしょ? クリスマスなんだから」



 はあ?



 海さんまで何を言うんだ。



「そんなことより早く食べよう? 僕、おなか空いちゃった!」



 超特大級ハンバーガーを彼女の前に置くと、さっそく彼女は附属しているナイフとフォークを手にとって、そのハンバーガーに切れ込みを入れ始めた。



 そして大きく口を開けて、小さく切り分けたハンバーガーをぱくりとほおばる。



「ん~っ」



 まるでリスのようにほお袋をぱんぱんにしながら、海さんは幸せそうにハンバーガーを咀嚼した。



「雪も早く食べなよ。冷めちゃうよ?」



「ああ、うん……」



 ううっ、お代も払っていないのに食べていいのかな。

 これで外に行ったらそれこそ食い逃げ確定だ……。



 僕がこんなに思い悩んでいるというのに、隣にいる海さんは超特大級ハンバーガーをあっという間に半分くらいまで平らげている。どうやら彼女の胃袋はブラックホールか何からしい。



「早く食べなってば~。僕ばかり食べて恥ずかしいじゃん~」



「……わかった、わかったから」



 仕方ない、食べるか。



 ていうか、思えば店員さんも海さんも、お代を払おうとする僕に不思議そうにしていたし。ということはここでは今、本当にお金を払わなくてもいいということだろう。



「いただき、ます……」



 燃えるように赤いハンバーガーに、僕はかぶりついた。



 耳鳴りがするくらい美味しいハンバーガーだった。

辛い物が苦手じゃない人の一部では、舌にしびれを感じずに耳鳴りがする、という話を聞いたことがあったので……(^-^;

雪は甘い物より辛い物、苦い物が大好きです。

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