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クリスマスイベント企画  作者: 凪野海里
1/5

1話 どこなんだ、ここは?

「おやすみなさい」



 誰に言うでもなく、僕は低くそうつぶやいた。



***



 目を開くと、そこは別世界だった。



「は?」



 ここは、どこだ……?



 あたりを見渡すと左右にきらきらと輝くショーウィンドウが並んでいて、そのどこもかしこもが赤色と緑色に彩られている世界だった。



 めちゃくちゃ明るくてまぶしい光に、僕は思わず目を細め、そして思わず上を見上げた。



 空は暗かった。



「夜?」



 あれ、僕は今までどこで何をしていたんだっけ? 



 ここに来る前のことを思い出そうと思っても、頭からそのときの記憶だけがすっぽり抜けているかのように、何も思い出せそうにない。



 むぅ……、ここはどこだ?



 ずっと立ち止まっていると、後ろから来た人にぶつかった。



「わ、すみません」



「チッ、気を付けろよ」



 明らかにぶつかってきたのはそっちなのに……。



 けれど反抗する気にもなれずに僕はぶつかってきた男性とその隣にいる女性――おそらくカップルだろう――の背中を見送った。



 気が付くと人の流れが増えてきていた。



 またぶつかる前に、どこか別の場所へ行った方がいいかもしれない。



 そう思って、僕はとりあえず近くにあるコンビニへと避難した。

 コンビニに入ったと同時に、チャララララン、という独特の入店音が流れる。



「いらっしゃいませぇ」



 コンビニの中は暖房が効いていてとても温かかった。そのとき僕は初めて、外がかなり寒いことに気が付いた。



「さっぶ」



 こんなことならコートでもなんでも、厚着してくるんだったな。

 そう思って体を見ると、あれ? いつの間に。



「コート着てるし……」



 いつの間にか僕の体には厚手の、大杉学園の校章が胸についた黒いコートを着ていた。



「どうなってるんだ?」



 不思議に思ったけれど、まあいいかと適当に片付けることにする。そんなことよりおなか空いた。何かないかな。

 そう思って、お菓子売り場へと歩いていく。なんだかスイーツ系を食べたい気分だった。とはいえ、甘い物はあんまり好きじゃないから、苦い物とか辛い物を選ぶんだけど。



 えーっと、ビターチョコレートは……っと。



「あった」



 それを手に取ろうとしたそのときだった。



「あぁぁぁっ! こんなところにいたぁっ!」



 突然の叫び声に驚いて顔をあげると、僕のいる商品棚の向かい側に顔を覗かせている女の子がいた。



 って。



「海さんっ!?」



 黒い艶のある髪、青い瞳――。



 そうだ、間違いなく彼女はクラスメイトの遠藤海だ。



 あれ? でも何かおかしい。



 彼女はふくれっ面をしながら、商品棚からいったん姿を消すと、今度は僕のほうの商品棚へとまわってきた。



 その背丈が僕の頭ひとつ分くらい小さい気がした。



 あれ? あれぇ?



「もうっ、探したんだからねっ! せっちゃんってばいっつも気付いたらどっか行っちゃうんだから」



 せっちゃん?



 誰だその人は。

 僕はわけがわからず、もう一度海さんを見た。



 彼女は本当に遠藤海なのだろうか、ともう一度考えてみる。



 だって僕の知っている海さんは、僕と同じくらいの背丈をしていて、さらには7月に切った髪だって5か月も経った今となっては、すっかり肩あたりまで伸びきっているのだ。それが。



 髪はショートカットになっていた。



 それに、僕の知っている海さんは、こんなしゃべり方はしない……はずだ。

 なんだここは? 異世界か? 僕はとうとうあの世の扉を開けてしまったのか?



 わけがわからない。本当にわけわかめだ。



「何してるの?」



「……いや、なんでも。ただ、僕の脳内処理能力がキャパオーバーしただけ……」



「それって大変なことなんじゃないの!?」



 ほらこれだ。



 いつもの海さんだったら、人を小馬鹿にするような目をしながら、「何言ってんだキミ」とあきれたように返してくるくせに。

 そもそもこの「遠藤海」もどきの言う「せっちゃん」ってどこの誰だ?



 やっぱり彼女は僕の知っている「遠藤海」ではなくてただの「そっくりさん」なのか?



 わけがわからない。



「えーっと。海……さん?」



「ウミさん? 誰それ」



「え?」



 彼女のことを言っているはずなのに、当の本人からはきょとんとした顔を返されてしまった。



 ああ理解、理解した。彼女は「遠藤海」じゃない。



「遠藤海」のそっくりさんだ。



 ここまで似ている顔があるというのも、なんだかおかしな話だけれど、世の中には同じ顔を持つ人が3人いるんだって、たしか前に篠田も言っていた気がするし。



 きっとそういう類の子なのだろう。



 だとしたら彼女の言う「せっちゃん」は、僕によく似た「3人の中の1人」ということになる。



 とんだ偶然もあったもんだ。



「あ、もしかしてまたごっこ遊び?」



「はい?」



 なんだ、今度はなんだ。



「海さん」はにこにこと楽しそうに微笑んでいる。



「いいよ。だったら僕はウミさんのままで。そしたら僕はせっちゃんのこと、雪って呼ぶから」



 雪!?



 ますます僕は困惑する。



 それはまぎれもなく、僕の名前だ。



 じゃあこの「海さん」の言っている「せっちゃん」は「雪」という名前で、その……いつもしている「ごっこ遊び」をしているのだろうか。



 顔も名前も似ているなんてこと、あり得るのか?



 しかも今、彼女「僕」って言ったぞ?



 実は「彼女」じゃなくて「彼」なのか?



「えっと。1ついいかな、海さん」



「ん、なあに?」



 無邪気に聞いてくる海さんに、僕は1つだけ質問をする。



「海さんって、女の子。だよね」



「あー。んもう、またせっちゃ……あ、雪ってばそういう言い方するし! 別に女の子で一人称が僕だっていいでしょ、別にさ。石上いしかみさんみたいなこと言っちゃってさぁ」



 誰だ、石上さんって。



 ……まあもういいか。これ以上は本当に脳内処理キャパオーバーで、頭がショートしてしまいそうだ。考えないことにしよう。



 どうやらこの「海さん」は、僕の知っている海さんとはまた違った事情を持っているらしい。



「そんなことよりも、早く行こ! せっかく石上さんの監視逃れてここまで来たんだから、2人で楽しもうよ! めいいっぱい!」



 そう言って、僕の腕をぐいっと引っ張ってくる海さんに、僕は思わず「え?」と返した。



「ここがどこだか、キミは知ってるの?」



「知らない!」

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